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ワインの向こうの南アフリカ
  • EAT&DRINK
  • 2018.08.20

ワインの向こうの南アフリカ

近頃、南アフリカ産ワインを小売店やレストランでよくみかけるようになった。私は食通ではないし、いわんや、ワイン通ではまったくない。だから、ワインのことはよくわからないが、南アフリカのワインをみかけると、ついついうれしくなって、ちょっと飲んでみたくなる。というのも、私はアフリカ研究者であり、南アフリカにもちょくちょく出かけるからだ。そして、「親馬鹿」ならぬ「アフリカ馬鹿」であり、完全な「アフリカ贔屓(びいき)」である私の舌には、南アフリカ産のワインは、どれもがほぼ例外なく美味なのだ。

多少のアフリカ通ではあっても、ワイン通ではまったくない私には、「南アフリカのワイン」について書くことはできない。そこで以下、「ワインの(向こうの)南アフリカ」について徒然に記したい。

「ワインはヨーロッパ人のあとを追った」

私たち日本人が南アフリカ産ワインを今日のように手軽に楽しめるようになったのは、同国でアパルトヘイト体制が終焉し、ネルソン・マンデラが大統領に就任した1990年代以降、特に21世紀に入ってからのことだ。

しかし、南アフリカのワインづくりの歴史は古い。1652年、オランダ東インド会社は、ヤン・ファン・リーベック率いる一団を今日の南アフリカのケープタウンに上陸させ、東方貿易のための補給基地を建設させた。そして、その数年後にはオランダ人によってブドウ栽培が始まり、ついに1659には初めてのワイン醸造に成功したといわれている。

1685年には、南アフリカ最古のワイナリーである「コンスタンシア」(Constantia)がケープタウンのテーブルマウンテンの南方に開設された。また、1685年にフランス国王ルイ14世が「ナントの勅令」を廃止すると、カトリックによる迫害から逃れるためにユグノーの人びと(カルヴァン派プロテスタント)がオランダ経由でケープタウンに流入し、フランスのワイン醸造の技術をもたらした。

フランスの著名な歴史学者であるフェルナン・ブローデルは「ワインはヨーロッパ人のあとを追った」と述べているが、南アフリカのワインもまた、大航海時代以降のヨーロッパ人の移動の歴史と密接な関わりにある。

白ワインはオン・ザ・ロックで?

「オン・ザ・ロック」というのは、氷を入れたグラスに酒を注いだ飲み物のことを指す。ウイスキー、ブランデー、ウォッカ、ジン、焼酎といったアルコール度数の高いお酒を飲むときのひとつの方法だ。

ところが、南アフリカ人の家庭に食事に招かれて白ワインを頼むと、「氷を入れる?」と尋ねられたりする。最初は「えっ、ワインに氷?」と内心思ったが、これがどうしてなかなかいける。強い日差しが照りつける南アフリカの夏(乾期)には最高だ。ソムリエやワイン通の方々からは、もしかするとお叱りを受けるかもしれないが、日本でも、氷を入れたグラスに白ワインを注いでオン・ザ・ロック?というのはいかがだろうか。

南アフリカのワインを知るための必携書『プラッターズ・ワインガイド』

南アフリカのワインのことを知りたければ、『プラッターズ・ワインガイド』(Platter’s Wine Guide)は必携だろう。1980年の創刊以来、毎年出版されている『プラッターズ』は、いわば「南アフリカのワイン年鑑」のようなもの。南アフリカのワインだけに特化し、900以上のワイナリーと8000以上のワインを厳正にテイスティングしてランク付けをしている。南アフリカの、特にワイン産地である西ケープ州などであれば、たいていの本屋には置いてある。現地のワイナリーを回ってワインテイスティングをしたり、日本に輸入された南アフリカ産ワインを楽しんだりするときに手元にあると、とても便利で参考になる一冊だ。

深刻化する水不足

南アフリカにおける最大のワイン産地といえば、なんといってもケープタウンを含む西ケープ州だが、同州では2015年以来、降水量が総じて少ない状況が続いており、特に乾期(11~3月)の水不足が深刻化している。

2018年、西ケープ州では「100年に1度」という危機的な水不足に陥り、庭の水まきや洗車が禁止され、シャワーも一人2分以内とするなど節水が呼びかけられた。同年3月には深刻な水不足のために国家災害非常事態宣言が発動されたが、その後に降水があったため、同宣言は6月には解除されている。

こうした深刻な水不足は2015年以来毎年のように繰り返されており、十分な灌漑施設をもたない西ケープ州のブドウ栽培農家には大きな悩みの種となっている。

ワインランドのワイナリーを巡る

西ケープ州のなかでも、ステレンボッシュ、フランシュフック、パールという3つの町を中心に広がっているのが「ワインランド」(Winelands)と呼ばれるワインの一大名産地である。ワインランドには、1000メートル級の山々が点在し、その斜面や麓に数多くのワイナリーが点在する。各ワイナリーでは、ワインの販売やテイスティングが行われているほか、レストラン、カフェ、バー、ミュージアム、マナーハウス、ホテルなどが併設されているケースが多い。

たとえば、ステレンボッシュとその周辺には、数多くの素晴らしいワイナリーがある。「スピアー」(Spier)は老舗のワイナリーだが、レストランのほか結婚式などに用いられるマナーハウスがあり、広大な庭園の散策も楽しめる。

素敵なワイナリーでワインを飲みながら美味しい昼食を取りたいならば、「ドルニエ」(Dornier)のレストランや、日本のテレビ番組でも何度か紹介されたことがある「スターク・コンデ」(Stark Condé)の「ポストカード・カフェ」がお勧めだ。

しかし、なんといってもコストパフォーマンスがいいのは、「クロス・マルバーン」(Clos Malverne)の、ワインと料理がペアリングされたランチコースだろう。窓際の席を取れば、美しい山々やブドウ畑を眺めながら最高のランチを楽しめる。しかし、とても人気があるので、ランチは絶対に事前予約をしておく必要がある。

もし、ワイナリーで豪華な夕食を堪能したいならば、「ドゥレア・グラフ」(Delaire Graff)のディナーがいい。夕方から夜にかけてのグラフの雰囲気は、本当にプライスレスに素晴らしい。

このほか、チョコレートとワインをペアリングしてテイスティングできる「ランゼラック」(Lanzerac)のような老舗ワイナリーも見逃せない。

しかし、こうしたステレンボッシュ周辺のワイナリーは、徒歩やバスで巡ることはできない。民間のツアーに申し込むか、レンタカーをして自分で運転をして訪れるしかない。私は、レンタカー派だ。南アフリカのレンタカーは日本と比べて格段に安いし、何よりも南アフリカは車社会であり、公共交通機関が限られているので、車がないと移動が不便で仕方がない。それに、西ケープ州も治安はけっしてよくないので、身の安全のためにも車は必要になる。

ちなみに、日本では飲酒運転は厳しく処罰されるが、南アフリカの場合、ワイナリーでワインテイスティングや飲食をしたのちに運転をしても罰せられることはない。とはいえ、酩酊状態で運転をすることは、やはり南アフリカでも認めれていないので、くれぐれもご注意あれ。

落合 雄彦

落合 雄彦

おちあい たけひこ

龍谷大学法学部教授、法学部長

専門はアフリカ政治論と国際関係論。主要な編著書として、『アフリカの女性とリプロダクション──国際社会の開発言説をたおやかに超えて』(編著、晃洋書房、2016年)、『アフリカ・ドラッグ考──交錯する生産・取引・乱用・文化・統制』(編著、晃洋書房、2014年)などがある。2004年、日本アフリカ学会研究奨励賞受賞。