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冬の酒場は熱燗が良く似合う
  • TRIVIA
  • 2019.01.10

冬の酒場は熱燗が良く似合う

京都速報の編集長という仕事をしていると年間で4~500軒は外食することになります。初対面の方から古い付き合いの方まで様々な方と酒席を共にする中で、私が「魔法の言葉」と呼んでいる言葉があります。

それは「熱燗」です。

例えば誰かと二人で酒場へ行き、その方がお酒を飲めるのにあまり飲まないとします。

するとその方のお尻が椅子から浮いているような気がして落ち着かなくなるのです。本当は「早く帰りたいのか」や「体調が優れないのか」などとあらぬ心配をして気もそぞろに食事することになってしまいます。

それとは対照的に、一緒に飲みに行った方が「熱燗」を頼むと、「おっ。腰を据えて飲む気だな」と感じて、妙に嬉しくなるのです。

「熱燗」を注文するというのは、「今宵はあなたと飲み明かすつもりです」と言われた気がして、まさに愛の告白に近い言葉のように感じるのです。

そしてこちらもその心意気に応えるように、たとえビールが飲みたかったとしても「おちょこをもう一つ」と店員さんに言ってしまうのですが、そうしてその場に生まれた妙な一体感が酒場の醍醐味の一つだと思っています。

熱燗は、こだわった素材の味と絶妙な温度、さらにこういった心のエッセンスが加わり、より磨かれた美味しさを放つのだとそう思っています。

そこで今回は、「熱燗と冬のアテ」をテーマに、3軒の酒場で酔いしれたいと思います。

「魔法の言葉」と共に。

1. 知る人ぞ知る街中の名酒場「草庵(いおり)」

麩屋町二条を下がった東側に佇む草庵さん。「そうあん」ではなく「いおり」と読みます。
創業は昭和46年。
京都市役所から徒歩5~6分という好立地で路面店にも関わらず意外と知らない方が多いのですが、一歩店内に足を踏み入れれば活気に溢れており、満席じゃない日をみたことがないほどの人気店です。恐らくかなりコアな常連さんが多数いらっしゃるのでしょう。

私もこちらのお店は大好きでちょくちょく利用させてもらっています。

この味のある渋さというのはどんな優秀な設計士でも作れないでしょう。
ウイスキーが熟成するように、少しずつ少しずつ、長い年月をかけてこそにじみ出るものです。

カウンターに腰かけてまずは熱燗を。
これほど徳利が似合うカウンターにはなかなかお目にかかれません。
こちらの熱燗は「菊政宗 上撰」。
すっきりとした雑味のない辛口が特徴的です。

チビチビとやりながら、正面のメニュー札を眺めるのもここの楽しみ方。
とんかつ、カキフライ、たこブツ、いか塩辛、焼しめ鯖、ざるそば…
お品書きの種類も豊富で実にいぶし銀。
酒飲みの気持ちをよく理解されています。

ぶり照焼580円。
香ばしく味わい深いぶりと辛口の日本酒は相性抜群。

ハムカツ580円。
かなりの大きさで厚切りタイプ。サラダも添えられていて、こちらに来ると必ず頼む1品です。

ネギチーズ450円。
白いのは豆腐ではなくチーズ。ネギとの相性もよく、おつまみにぴったりです。

旨いアテでお酒のエンジンがかかり始めた矢先、次のお店から席が空いたとの電話が鳴る。

今宵はハシゴ酒企画。
つい1軒目で満喫してしまいそうになるところを踏みとどまりタクシーに乗り込んだ。

2. 京都を代表する老舗居酒屋「神馬」

千本中立売に創業80年を超える老舗居酒屋「神馬(しんめ)」はあります。
この界隈はかつて、市電が走り、西陣織の旦那衆の社交場でもあり、京都で最も栄えた歓楽街のひとつだったそうで、その名残は今も随所に見られます。
この「神馬」のその一つ。
一説には京都最古の居酒屋とも言われています。

店内に入るとタイムスリップしたかのようにどこか懐かしく、不思議と温かさに包み込まれているような感覚に陥ります。

店内の主役はカウンター。
ぐるりと店主を囲むコの字カウンターは迫力満点です。

初めて伺ったのは、出版社勤務時代に酒場の雑誌の巻頭を飾るお店を探している時でした。
これほど温かく、落ち着く居酒屋が京都にあったとは…と衝撃を受けたものです。

当時はまだ二代目店主がご健在の頃でしたが、今の三代目店主に代わってからも、変わらず良いお店です。

それでは早速熱燗を。
「神馬」の特徴の一つに、熱燗を飲んでいる方が非常に多いことが挙げられます。
実は六種類のお酒が絶妙にブレンドされていて、お酒そのものが美味しいのがその理由です。

佐渡の天然ぶりのお造り1500円~。
全く臭みがなく、脂のりと鮮度は圧巻です。

のどぐろ塩焼(半身)2000円~。
焼き加減が絶妙で、旨みの凝縮されたやわらかくジューシーな身は日本酒にも良く合います。

もう1品、こちらで絶対に食べていただきたいのがこのローストビーフ1500円。
黒毛和牛のイチボを使っているのですが、柔らかくて口の中でとろけてしまいます。京都でも3本の指に入る美味しさのローストビーフだと思います。


お腹も膨れてきましたが、そろそろもう一軒。ほろ酔い気分で向かうとします。

3. 立ち飲みの隠れ酒場「奥まったとこ」

京都には〇〇会館といった飲み屋の集合施設がいくつかあります。西院の「折鶴会館」や四条富小路「四富会館」などは有名ですが、堀川丸太町にも「木村会館」というマニアックな飲み屋会館があります。

知らなければ入りにくいかも知れません。
しかし、その先に素敵な酒場との出会いが待っている可能性は結構高いのです。入りやすいお店が流行るのは当たり前ですが、入りにくくても流行っているのはそれなりの理由があるからです。

細い通路を奥へ進むと右手に、5人も入れば満員になりそうな小さな立ち飲み屋があります。

まさに店名通りの「奥まったとこ」。
気さくな店主&料理長の若いお二人が切り盛りされていて息もぴったり。
料理と酒はもちろん、会話も楽しめる居心地の良い空間となっています。

お店の中には遊び心溢れた置物や飾りなどがあり、「あれ、なんですか?」などと言う会話は日常茶飯事。

こちらの熱燗は、無くなり次第別のお酒に変わるスタイルです。
今は佐々木酒造の「聚楽第」ということでラッキーです。

その前の「獺祭」の時も一瞬で無くなったそうです。
他にも順番待ちの名酒が控えていて、「これ開けるときは連絡して」という常連さんもいらっしゃるとか。
素敵な距離感ですね。まさにアットホーム。

おでん盛り合わせ480円。
冬のおでんは外せませんね。

櫻井くんの餃子150円。
新規のお客さんが来店すると、由来を尋ねる確率100%!?の名物。
こういう会話が弾む仕掛けのおかげで、気が付けば隣の席のお客さんとも打ち解けて名刺交換をしていたりします。
自然発生的に良い出会いが生まれることも酒場の醍醐味。

熱燗を飲み続けてさすがに酔いが回ってきましたが、会話が楽しくなってきたので最後にもう1本いただいてハシゴ酒を終えようと思います。
と言いつつ、その後もう1本頼んでいるかも知れませんが…

次の一杯で帰ろうと思っているのに、もう1杯、また1杯と結局長居してしまう酒場って時々ありますが、そういうお店が結局一番良いお店なのかも知れません。

最後に

今回は京都市中心部に近いエリアで、老舗酒場から新しい隠れ家酒場まで巡りました。
年間を通して酒場を訪れていますが、冬の酒場が一番好きかも知れません。
寒さの厳しい冬の京都で、酒場の持つ何とも言えない温かさがたまらなく居心地を良くするからです。
そしてほろ酔いで店を出て、あまりの温度差に武者震いして酔いが醒め、次の酒場へと逃げるように移動するのです。
渡り鳥のように。

一軒目 草庵
京都市中京区麩屋町通二条下る尾張町210-4
二軒目 神馬
京都市上京区千本通中立売上る玉屋町38
三軒目 奥まったとこ
京都市中京区丸太町通油小路西入る丸太町28番地

細井 悠玄 氏

細井 悠玄 氏

ほそい ゆうと

ニュースサイト京都速報 編集長

龍谷大学法学部卒業後、本と京都が好きという理由で2002年地元の出版社に就職。グルメ情報を中心に扱う月刊誌の営業・制作を経て、2014年に京都初の男性版情報誌の編集長として創刊を担当。渋酒場、ネット未掲載の名店、一流シェフの最後の晩餐飯、など「使える街のネタ」を特集し地元京都の書店で3号連続ベストセラーを達成。その後、後任に編集長を譲り独立。「ニュースサイト京都速報」を立ち上げ取材の日々を過ごす。