記事トップ

熱力学的ダイエット論 その1【第3弾】
  • HEALTH
  • 2019.03.22

熱力学的ダイエット論 その1【第3弾】

超低糖質ダイエットをどう考えるか

糖質は脂質よりも体脂肪になりにくいにもかかわらず、アメリカでは糖質を徹底的に排除するダイエット法が流行する。グリコーゲンや水分が少ない状態になるので、一時的には体重が減ってぜい肉がとれたような感覚が得られるのは確かであろう。
高脂肪・高たんぱく質というのはまさに肉食である。肉食の豹やチータなどはぶくぶく太ってはいないので肉食が必ず肥満になるとは言えない。代謝と運動しだいである。
人間でも高脂肪食を続けると、脂肪の酸化能力が増し、食欲にもゆっくりと抑制がかかるので、長期的には高脂肪食に適応した体におちつく可能性はある。
日常的に脂肪含量の高い食事を摂取し続けているアメリカ人は脂肪の酸化能力も高いだろうし、甘いものも食べすぎているから糖質を排除するほうが総エネルギー摂取量を減らすためには容易だろう。しかし日本人にはおすすめしない。
糖質を減らすことによって特別なダイエット効果があるわけではない。低脂肪ダイエットと低糖質ダイエットの違いは、あくまでも総エネルギー摂取量を脂肪で減らすか糖質で減らすかの選択の問題であろう。脂肪だけならいくら食べても太らないという俗説は論外。信じたらひどい目に遭う。

低脂肪食の方が無難である

遺伝子の多型の研究が進み、日本人には遺伝的に体脂肪を分解する能力の低い人が多いことがわかった。アジア人の遺伝的特徴でもある。膵臓の機能も遺伝的に弱いので、日本人は高脂肪食を食べ続けると糖尿病になりやすいこともわかっている。リスクを冒してまで、わざわざ高脂肪食を食べる必要はない。
糖質は血糖値を維持する。血糖は脳の唯一の栄養であるので重要である。食事から糖質を排除すると、必要な糖はたんぱく質を分解したアミノ酸から作られる。欧米の肉食のように脂肪とたんぱく質を食べるのならば糖は体内でなんとか作れるだろうが、たんぱく質を充分とらないと肝臓や筋肉などの臓器のたんぱく質が分解されて流用されてしまう。臓器がやせる。身体によいわけがない。この意味でも低糖質ダイエットはお薦めしない

高脂肪食は無意識に食べすぎてしまう

流動食を成人に与え、突然、低カロリーに変える実験では、数日以内に摂取量が無意識に増加する。低カロリー食はたくさん食べないと満足できないことが多いのだ。
糖質をたくさん食べると食べすぎ信号が出て食欲にストップがかかる。脂肪でもストップはかかるのだが、糖質よりは遅い。それで満腹になるまでに食べ過ぎてしまうと考えられている。特に肥満者では脂肪によるストップがかかりにくいことが実験的に知られている。

でんぷんは太らないというのも正しくない

糖質が体脂肪に変わりにくいことは先に述べたととおりである。低脂肪ででんぷん含量が高いごはんはダイエット食としても優れている。では、ごはんやでんぷんはいくら食べても太らないかというと、残念ながらそれは正しくない。
アメリカのアースランドらは、糖質を大量に摂取すると肝臓では脂肪に変わりにくいが、脂肪組織で体脂肪の合成が行なわれる可能性があることを示している。一方で、脂肪組織における糖質からの脂肪合成はそれほど多くないという報告もあり、研究者の意見もかならずしも一致しないが、ともかく、高脂肪食ほどではないにしても、低脂肪でも過剰に摂取すると体脂肪に変わることに間違いはない。

参考文献
Acheson KJ.et al. Metabolism 31:1234-1240,1982
エネルギー収支のバランスと体重の制御、Scutz Y.& Garrow J.S. 、「ヒューマン・ニュートリション」 第10版 医歯薬出版 147-158、2000


出典:女子栄養大学出版部「栄養と料理」

伏木 亨

伏木 亨

ふしき とおる

龍谷大学農学部教授、農学博士、龍谷大学農学研究科長

専門は農芸化学・栄養化学。「味覚と嗜好のサイエンス [京大人気講義シリーズ] 」ほか著書多数。日本香辛料研究会会長、日本料理アカデミー理事。平成24年日本農芸化学会賞受賞。平成25年飯島食品科学賞受賞。平成26年紫綬褒章受賞。