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HEALTH 2021.01.29 青木 達・酒井 崇宏

ノープロテイン、ノーライフ!の、その前に。S&Cコーチが伝えたい「体力」の話。vol.2

アスリートだけのものじゃない。

人間が豊かで健康的な人生を送るために欠かせない「体力」。

そして、それを生み出すトレーニングのメリットとは?

後半も引き続き、S&Cコーチのご両人にお話を伺います。

体力を制するものは、人生を制する⁉︎

青木コーチ:ダイエット的な話は運動抜きで話がされることが多いと思うんですけど、食べ物は基本的に足し算ですから、運動の引き算をどんどんしてあげる方が運動習慣がつきますし、体力もつきます。体力がつくということは体に余裕ができるということなので、やりたかったけれど、疲れたという理由で止めておいたことができるようになる。生活を豊かにしてくれるんです。
編集部:人生を思い切り楽しみたい人こそ、ですね。将来のためにコツコツ貯金や投資をするのもいいですけど、よりよい人生のためにもトレーニングをして体力をつけた方がいい。今さらですが、実は私、最近、スクワットを始めまして。
青木コーチ&酒井コーチ:いいですね〜。

編集部:と言っても、1日10回3セットぐらいのものなんです。でも、それだけでも自己肯定感が高まりますね。
酒井コーチ:僕はそれが一番大事だと思っていて。トレーニングをすることで、生活の質を表すQOL(Quality of life)が向上すると思うんですよね。
青木コーチ:体力は行動力につながり、生活の質を向上させる。仕事の後にジムに行ける人も体力のある人ですよね。エネルギッシュに生きることができる。何度も言いますが、そのためには運動習慣の維持が必要なんです。
酒井コーチ:高齢者の人も歩くスピードが速い人の方が長生きするというデータがあって。もちろん筋力があるというのも理由の一つですが、速く歩けると社会も広がるじゃないですか。社会とのつながりが深い人の方が長生きできるという話も聞いたことがあります。あと、そもそも食事って楽しみでもあるじゃないですか。食事制限のダイエットだと我慢ばかり強いられるから、楽しくないし続かないですよね。続かないから、痩せられない。食べたいものを食べて運動をしてシャワーを浴びて、1日を気持ちよく過ごすというライフスタイルが僕はいいと思います。

青木コーチ:痩せるに楽はない。でも、運動で楽しく痩せることはできると思います。
編集部:確かに。
酒井コーチ:ほんと、楽しく続けられるならトレーニングはいいことばかりだと思います。今週は飲みに行っちゃったから、週末はトレーニングしようとか。それぐらい余裕を持って調整してあげるとストレスなく続けられるんじゃないかな。
青木コーチ:エスカレーターを階段にしたら引き算が増えるじゃないですか。たったそれだけのことなんです。でも、それがなかなかチョイスできない。運動って生活の中にいっぱい溢れているはずなんですけど、楽することに慣れちゃっているから。でもあえてそこを探してあげると、遠回りした先に美味しそうな飲み屋を見つけるかもしれませんよ〜。

「登りだけでなく、階段を降りる動作も筋力アップに」と青木コーチ。

編集部:いいですね〜。トレーニングしたくなってきたかも(笑)。
青木コーチ:健康で体力があれば、普段の仕事にもエネルギッシュに取り組めますよね。
編集部:これは、一般企業がS &Cコーチを雇う時代が来るかもしれませんね。
青木コーチ:いいですね! 僕らがそこでトレーニングの大切さを伝えて、体力の相談にも乗ると。体脂肪率が高い部署は高層階に移動してもらって、階段しか使ったらダメとか。
編集部:それはまた結構なスパルタですね(笑)。企業体力という言葉がありますけど、そこで働く人の体力も維持・向上できたらいいですよね。

選べない脂肪、選べる筋肉。

酒井コーチ:トレーニングのいいところって、筋肉をつけたい場所につけられるとこなんです。
編集部:筋肉は選べる、と。
酒井コーチ:一方、脂肪は選べない。
編集部:あ、でも、部分やせとかよく…。
青木コーチ:そんなものは、ないです(ピシャリ)。
編集部:…。
酒井コーチ:あと、脂肪は重力に負けるけど、筋肉は重力に負けない。
編集部:おぉ。その言葉、今日一番響いたかもです。
酒井コーチ:脂肪は加齢と共に垂れてくるんですよね。でも筋肉は吊り上がっているので垂れない。

編集部:スクワット続けます! 歩いて持久力を高めつつ、筋トレがいいですね。
青木コーチ:なかなか両立は難しいかもですけど、階段を一段飛ばしで登るのもトレーニングになりますから。一段飛ばした日はビールを飲んでもいいとかにしてね。
編集部:ますます頑張れそうな気が。家でのおすすめのトレーニングはありますか?
青木コーチ:一番はやっぱりスクワットですね。上半身を鍛えるなら腕立てですが、床ではなく壁に向かってでもいいですよ。あと、引っ張る動作も大事。押す動作ばかりをしていると猫背になることがあるので。

デスクでもできるストレッチ。肩の高さに上げた腕を後ろに引き、肩甲骨を寄せる。
次に左右の肘を合わせるように背中を丸める。肩甲骨を開くイメージで。

酒井コーチ:デスクワークが長時間続くと姿勢も丸くなってくる。なので、その反対の動きをしてあげるのがいいですね。普段の生活でもあまり引っ張る動作はないので、そこは意識的に。
青木コーチ:本当は懸垂が一番なんですけどね。会社に入口に鉄棒があって、懸垂したら入れるとかにしたらいいのに。
編集部&酒井コーチ:(笑)。

トレーニングは結果が全てじゃない。

編集部:聞けば聞くほどに、体力の専門家であるS &Cコーチがいるといないのとでは成果に大きな違いがありそうです。
青木コーチ:でも体力の数値が上がったからと言って、イコール、試合で勝てるわけじゃない。そこをGMに理解してもらえるかどうかは、僕らの雇用に関わるところですね。
酒井コーチ:僕たちにとっての結果とは、というのはよく議論されるところなんですけど、勝ち負けばかりではないんですよね。かと言って、筋力の向上や学生の満足ばかりでもない。もちろん、勝てたらそれは一番の成果だと思うんですけど。じゃあ、トレーニングの成果は今年とてもよかったです、でも試合には勝てませんでしたとなったら、僕たちの評価はどうなるんですかということですよね。
編集部:その答えは出ているんですか?
青木コーチ:いや、なかなか出ないんですけど、一番、解雇されやすいのは僕たちだと思います。そういう理由で職を失う同業者もいますね。

酒井コーチ:強いて成果を感じるところがあるとしたら、選手の納得ですかね。結果は出なかったけど取り組みを信じることができた、とか。
青木コーチ:競技スポーツに関わる一味の人たちは、皆、何かしらそういうのがあると思います。
編集部:シビアな世界ですね。
酒井コーチ:でも、僕らは大学で教えているからかもしれないですけど、結果にコミットすることだけが本当にいいことなのかどうかは、今年、すごく考えさせられましたね。というのも、今年はコロナの影響で試合がない学生がたくさんいるんですよね。試合がないままもう引退している子たちもいて。そういう子たちはトレーニングをずっとしてきたのに試合で発表する機会に恵まれなかった。
編集部:うんうん。
酒井コーチ:じゃあ、結果にコミットするためだけに頑張っていたら、このトレーニングはなんだったんだと、意味があったのかなって思っちゃうんですよね。もちろん結果も大事なんですけど、トレーニングをするというプロセス自体が楽しかったとか、何か喜びを感じてもらうことが必要なんじゃないかな。そんなことを今年は痛感しました。
青木コーチ:先ほども話した通り、トレーニングという地味で楽しくないものを、いかに前向きに取り組んでもらえるかというのが僕らの仕事なので。例え結果が出なかったとしても卒業生から、今もトレーニングやってますよ! って言われたら、指導した甲斐があったなぁと思います。

編集部:でもやはり、一番の喜びは選手を勝利に導けた時ですか?
青木コーチ:まぁ、それはやっぱりコーチですから嬉しいですけど。
酒井コーチ:勝った時の嬉しさって3日ぐらいじゃないですか?
青木コーチ:その瞬間ぐらいかもしれないですね。
編集部:み、短い。
酒井コーチ:勝ってよかった。報われた1年間が! って思った次の瞬間には来シーズンのことを考えなきゃいけない。その気持ちを一生引きずるかと言われると違うかもしれないですね。
編集部:コーチのモチベーションについてはどうでしょう。
酒井コーチ:種目に関わらず、スポーツ選手って自分がより良くなっていこうとするじゃないですか。だから、僕たちもよりよくなっていこうという努力を怠ったらダメだなと思うんです。僕にとっては、日々よくなろうとする選手や学生と触れ合うことが一番のモチベーション。彼らを見ていると僕らも頑張らなきゃいけないなと思います。彼らの頑張りに僕らが負けていると、頑張りを伝えることもできないので。

青木コーチ:僕は選手の笑顔かな。勝った時も喜びますし、負けた時の悔しさも一緒に体感して、チームと一緒に戦いたいというのが一番のモチベーション。もちろん、選手らが喜ぶ顔はいいボーナスで、この仕事をやっていてよかったなと思います。でも、全国大会で優勝するのは1チームしかない。最後、勝利で終われるチームは僅かであるのはみんな分かっているはずですし、負けても満足感があってよかったですって笑顔になってもらえるように。勝ち負けとかそういうことより、そっちの方が大事かな。トレーニングするのも笑顔でやってもらいたいから、ちょっとでも前髪を切ったら褒めますし、靴も褒めますしね(笑)。

継続は「体力」なり。

酒井コーチ:視力や聴力があるように、視る力がよければよく見えるし、聴く力があればよく聞こえるじゃないですか。体力は体の力なので、体全体をよりよく動かす力なんです。
青木コーチ:そう。文字通りね。
編集部:トレーニング時には動かす筋肉を意識した方が効果があるとされるように、体力の重要性を理解してトレーニングするのとそうでないのとでは、得る成果も違うのではと感じます。これは一般教養としてみんな知っておいた方がいいような。
青木コーチ:そうなんです。保健体育の授業で教えているはずなんですけど、あまり伝わっていないんですよね。
編集部:まずはコツコツと、できる範囲からトレーニングを頑張ります! あとはやはり継続ですね。
酒井コーチ:人生は選択の連続。だったらぜひ、トレーニングになる方の選択を積み重ねてみてください。きっと、見える景色が変わってくると思います。


写真/伊藤 信

青木 達・酒井 崇宏

あおき とおる・さかい たかひろ

S&Cコーチ

●青木 達(あおき とおる)
1976年、大阪府出身
立命館大学産業社会学部卒業後、㈱PerfectTrainers、ウイダートレーニングラボOSAKAを経て2007年から現職
資格:NSCA-CSCS*D、JSPOーウェイトリフティングコーチ1

●酒井 崇宏(さかい たかひろ)
1987年、神奈川県出身。東京都北区健康増進センター、明治大学男子バスケットボール部、パナソニックインパルスを経て2017年から現職。
資格:NSCA-CPT