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CULTURE 2020.01.29 坂梨 健太

カカオの生産現場とフェアトレード

バレンタインの季節。街中、チョコレート一色です。女性が男性に一方的に渡すという日本独自の慣習は昔のことで、今は各々がチョコレートを楽しむイベントになっています。興味深いのは、原料であるカカオそのもの、つまり、産地や種類の情報が得られるようになっていることです。ワインのように、ある土地でできたカカオに特別な価値が与えられ始めているのです。

カカオの原産地は中米ですが、現在の生産の拠点は西アフリカです。日本で馴染みのあるガーナ、世界最大の生産量を誇るコートジボワール、さらにナイジェリアとカメルーンを加えたアフリカの4カ国で、世界の7割に達するほどのカカオを産出してます。これら生産地は、昨今の多様なチョコレート販売によって身近になってきたかもしれません。

それでは、実際にカカオ収穫現場はどうなっているのでしょうか。わたしが長年調査を続けてきたカメルーンの事例を紹介します。

カカオ生産地の実態は…

カカオ収穫現場の様子(2005年)(筆者撮影)

収穫作業は、カカオの実を樹木から落とし、種子を取り出し、発酵、乾燥させる作業に分かれます。実を落とす作業は、先端に刃のついた2〜3メートルの自作の棒を用います。作業中ずっとカカオの樹を見上げ続けなければならないので、首が痛くなります。

発酵後、カカオ豆を2週間ほど乾燥させることで、チョコレートのような香りをかぐことができます。農民は、乾燥されたカカオ豆を栄養があるといって口に入れることもありますが、「消費」するのはほんの一握りです。チョコレートを普段から口にすることはほぼありません(もちろん存在は知っています)。のどから手が出るほど現金が欲しいために、カカオ販売の際には業者の言う価格で安く買いたたかれてしまいます。

天日で乾燥されるカカオ豆(2007年)(筆者撮影)

このような過酷な労働や貧困問題は、カカオ生産現場の日常風景です。農民の状況を少しでもよくする仕組みとして真っ先に思いつくのはフェアトレードでしょう。市場に連動するカカオの価格に一定の額を上乗せすることで、生産者の所得の向上や村の発展が目指されます。

フェアトレード・チョコレートもよく見かけるようになりました。しかし、わたしたちは、これらの商品を買うことで農民の生活向上に貢献できると、諸手を挙げて喜ぶわけにはいきません。

生活必ずしも向上せず

最近の研究では、フェアトレードが農民の生活に必ずしもプラスにならないという結果が出ています。貧しい農民にはフェアトレードの認証を取得する余裕がなかったり、大勢がフェアトレードに参入することで土地不足に陥ったり、大量に生産されることで在庫が増えて捨てることになったりと、マイナスの影響も無視できないのです。

もちろん、農民の所得向上や公正な貿易システムの構築といったフェアトレードの理念は重要です。ただし、フェアトレードが必ずしも万能であるわけではないことは知っておくべきでしょう。

ともあれ、日本では1年のなかでチョコレートの消費量が極端に伸びるこの時期。チョコレートの原料がどこから来ているのか、誰がどのように作っているのか、思いを馳せてみるいい機会です。


出典:2019年2月13日(水) 京都新聞

坂梨 健太

さかなし けんた

龍谷大学農学部講師、博士(農学)

熊本県出身。熊本高校卒業。熱帯アフリカに暮らす農民の経済や自然環境利用について研究を行い、京都大学大学院農学研究にて修士過程、博士課程(農学)を修了。専門は農業経済学、アフリカ地域研究。著書に『アフリカ熱帯農業と環境保全』(単著、昭和堂、2014年)など。