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熱力学的ダイエット論 その3 ー敵は本能にありー 【第2弾】

伏木 亨

龍谷大学名誉教授、農学博士

熱力学的ダイエット論 その3 ー敵は本能にありー 【第2弾】

伏木 亨

龍谷大学名誉教授、農学博士

「満腹感よりも満足感」で摂取を減らす方法

食べ方もくふうせねばならない。
食べることを罪悪視するのはいけない。明るくやせないと意味がない。
「私は水を飲んでも太る体質だからダイエットはムリ」
近年、遺伝子の解析が進み、エネルギーの消費にかかわる遺伝子の多型が報告されている。遺伝的に太りにくい人は確かに存在する。だからといって食事制限の効果を疑問視するのは正しくない。スマートなダイエットはまちがいなく有効である。
「食べても太らない人は存在する。しかし、太っている人はかならず食べている」
例外はない。ダイエットの第三法則と呼びたい。
さて、工夫の実践である。

油をだしのうま味にかえる

その1でも力説したが、油物を控えるのは賢明である。でんぷん食に慣れている日本人の体は油よりもでんぷんを消費しやすい。でんぷんはグリコーゲンとして肝臓に一時的にたまるが活動中に燃える。運動との併用の効果も現れやすい。油脂の代わりにだしのおいしさに凝ることをすすめる。うま味は予想以上に満足感が強い。油脂とうま味の満足感は同じ脳内メカニズムだからだ。だしの満足感は油脂に対抗できる。うまいだしの文化を持つ日本人のアドバンテージでもある。
だしのきいた野菜の煮物を増やそう。和食によく使う油揚げは煮物の表面を油が薄くコートしてくれるのでカロリーの割には油脂を口にしたという満足感が高い。舌に油を薄く広く接触させる日本の知恵である。
日本の航空会社は機内でコンソメスープを配っている。乗客の空腹を鎮めるために有効である。おいしいだしをとれば少ない油脂でも満足できる。油脂をうま味に代えるだけで体脂肪の蓄積は減る。

食欲がないときは食べない

人間の食欲は、味やにおいによって誘導される部分がある。じょうずな料理は風味や味がさらに食欲を高めてしまう。忙しい昼間など、特に豪華に食べたくないときには、必要な栄養素がしっかりとれるビスケットやバー状のものなどですますのも手だ。ただし、油脂含量が高い製品もあるので表示のチェックが必要。
食欲がないのに食べてしまうことがよくある。捨てるのはもったいないので食べる。出された料理を食べきらないと申し訳ないので余計に食べてしまう。バイキングや立食では食べないと惜しい。
「もったいない」は思いきってカット。ごみ箱に捨てても、あなたの体脂肪の海に捨てても、もったいことに大差はない。余ったものは冷蔵庫へ。

食事をムリにまずくするのは愚行

ごはんにとんでもない色をつけると食欲が落ちる。料理をわざとまずくするとたくさん食べる気がしなくなる。もちろん有効ではあるが、おすすめはしない。本講座のモットーである「明るくやせる」に反する。
恐ろしく料理がへたなパートナーと幸運にも(?)出会ってしまった人は、料理はへたでもすてきな人ならば、苦痛なく食事の制限ができるかもしれない。しかし、外食のジャンクフードが異常においしく思える副作用があるかもしれないので注意。

ゆっくり食べて満足感を引き出す

おいしいものをゆっくり食べることはむずかしい。ネズミの実験ではペロペロなめる舌の回転速度を測って食品のおいしさの指標にするほどだ。おいしいものを速く食べたいのは本能なのだ。おいしいものをゆっくり食べるのは簡単そうだが、意外にむすかしい。
胃をふくらませて満腹感を出すのも効果がある。こんにゃくや竹の子など消化されにくくカロリーの低いものでもお腹がふくれるのは胃の拡張信号の働きだ。風船でも満足感が出るというネコの実験がある。パンに比べて水分の多いごはんも胃をふくらませるのに有効である。胃壁への圧力が満腹感を出す。まだ満腹でなくても、少し待てば満腹感が得られると信じて、腹八分目で食べるのをやめる。意外に効果は大きい。一方、最初に少なめによそうのは効果がない。もっと食べたくなる。心理の綾である。

食事を抜くのは一時的に可能でも、長続きはしないようだ。がまんできずに食べたときに止まらなくなる。しかも最悪の時刻に食べがちである。
ところで、関連グッズとして0.1kg以下の単位で量れる精密なデジタル体重計が欲しい。入浴前などにトイレに行ってから計るのがコツ。服の重さを適当に引き算するのは不正確で絶対ダメ。自分の体重がいかに運動と食事を正確に反映しているかが納得できれば、体重維持はむずかしくない。
次回は、お酒、食事回数、サプリメント、食事時刻などを考える。 
 
参考文献
運動と栄養と食品(伏木亨編著) 朝倉書店 2006年

出典:女子栄養大学出版部「栄養と料理」