われわれの身体は、食べたものからできています。生きるために食べているはずの食べ物によって、症状が出てしまうのが食物アレルギーです。食物アレルギーに対する考え方や治療の方法は、この10年くらいで大きく変わってきました。その契機となったのは2008年にイギリスの研究グループが提示した二重曝露仮説です。
それまで定着していた「食物アレルギーは食べることでなる」という考え方を覆し、「バリアが破壊された皮膚を通して食物アレルゲンへの感作が起こり、食物アレルギーが進行するが、経口摂取された食物抗原は免疫寛容・耐性を誘導する」という考え方を示しました。これは、ピーナッツの成分を含むベビークリームを使っていた子どもにピーナッツアレルギーが多いということから発見されました。その後、日本においても小麦加水分解物を含む石鹸を使用していた人が小麦アレルギーを発症するということがあり、期せずして経皮感作が証明さることとなりました。
二重曝露仮説を提唱したグループは、離乳食期からピーナッツを食べた群の方が、除去した群よりピーナッツアレルギーの有病率が低いという結果を2015年に発表しました。日本のグループも、2016年に同じような結果を卵で証明しています。自己以外の異物を排除する仕組みが免疫ですが、生きるために食べているのだから、腸管から入ってきたものに対しては免疫応答を抑える機構(免疫寛容)が働くというわけです。やはり、われわれの身体はうまくできているのです。
離乳食の開始にあたっては、スキンケアで皮膚の状態を良好に保ち、少しずつ食べる量や種類を増やしていくことが基本とされています。「食物アレルギーが怖いから食べさせない」ということは勧められません。ただし、これらの研究は「確率が下がる」ことを示しているだけで、食べたからといって必ずしも食物アレルギーにならないわけではありません。
もし、食物アレルギーを発症した場合は、アレルギー専門医にかかり、原因食品をつきとめ、成長にあわせてゆっくり治療を進めていきます。大学では、管理栄養士の視点から、食物アレルギーに関する基礎的な研究結果を、患者さんやそのご家族にとって安全・安心でおいしい食卓につなげることを目指して研究を行っています。
これまで食物アレルギーは、「卵アレルギー」「桃アレルギー」のように食品レベルで考えられてきましたが、実際にアレルギーを引き起こしているのは食品中にある多種多様なタンパク質の中のごく一部であり、人によって異なります。そこで、アレルゲンをタンパク質レベルで解析していくと、食生活に生かすことができるようになりました。
例えば、同じ卵アレルギーでも、スクランブルエッグなら食べられる、固ゆで卵なら食べられる、クッキーなら食べられるなど、加熱の工夫で食べられることが少なくありません。また、果物アレルギーでも、皮に局在しているタンパク質が原因の場合、皮をむけば食べられることもあります。
個々のアレルゲンタンパク質への加熱の強さや食品に含まれる量などを理解して調理することで、食の幅を広げることができるのです。現代病の一つである食物アレルギーとうまく付き合っていくすべを見つけることを目標に、今日もコツコツ管理栄養士の卵たちと研究をしています。
出典:2018年9月12日(水) 京都新聞