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熱力学的ダイエット論 その3 ー敵は本能にありー 【第1弾】

伏木 亨

龍谷大学名誉教授、農学博士

熱力学的ダイエット論 その3 ー敵は本能にありー 【第1弾】

伏木 亨

龍谷大学名誉教授、農学博士

熱量学的ダイエット論、第3回目は、食べたいという欲求をごまかし、運動はつらいという体の訴えをごまかすくふうを紹介する。敵は本能の快感である。快感にスマートに打ち勝つ方法を考えねばならない。

ダイエットを食事だけに頼るとさまざまな困難が生じる。カロリーが低すぎる食事はあまりにもおいしくない。口はだませても体が欲求する。少量しか食べないのも気がめいる。かように、生きるための本能はてごわい。エネルギーの摂取と消費の両面からはさみ撃ちにしないと、単独ではとても歯が立たない。つまり、食欲をごまかし、運動の苦痛をごまかすのだ。運動の助けで食事の制限は緩和され、気分も明るくなる。

運動の苦痛をごまかして消費を増やす方法

体をだまして楽しく運動する

本能をごまかし、快適にエネルギーの消費を増やすためには、楽しい運動を見つけることがベストである。やせたいという欲求だけでは挫折しやすい。友人とのテニスやゴルフの打ちっぱなし、ダンスにボクササイズ。なんでもいい。喜びがない運動は続かない。親しい人たちと楽しめればもっといい(ただし、スポーツのあとのビールはほどほどに)。マラソンはいやだがテニスは楽しい。そんな運動を見つけることがダイエット成功のカギだ。

体を動かすゲームを見つける

自分で運動を見つけられない人、外に出る時間がない人におすすめ。1人でもできる、体を動かすゲームは有効だ。音楽に合わせてステップを踏むコンピューターゲームなどのたぐいである。ゲームは人間を夢中にさせる。自分や仮想敵と競う快感は食の快感に勝る場合もある。一日30分も汗をかけば結果抜群。
ゲームメーカーも最近は体を動かすソフトの開発に本腰を入れだした。もうすぐ、さまざまなゲームソフトが巷に氾濫するだろう。インターネットで卓球やテニスの対戦をするのも夢ではない。
ただし、ゲームは体の一部分の運動になりやすいので、複数のソフトを使用する事が望ましい。また、妙な音がご近所に漏れないように軽量のヘッドホンや振動を吸収する床敷きなどくふうをする必要がある。

きびきび動く

もっとエレガントに、ストイックに、知的にやせたい人におすすめである。人間の日常的な動作には個人差があって、きびきび動く人とゆっくりの人がいる。この差はかなり大きなエネルギー消費の差になることが研究で明らかにされており、著名な科学雑誌に紹介されたこともある。きびきび動くだけでいい。
もちろん、エレベータをやめて階段を利用する、バスや電車ではすわらない、ひと駅手前で降りて歩くなど、地道な方法をいくつも積み重ねることは有効である。まじめな姿に自己陶酔する人ならば成功する可能性が高い。正攻法なのだが、人間の本能はあまりまじめではないらしく、脱落する人も多い。

ながら運動のすすめ

運動器具は3か月も活用できれば上出来だ。それほど決心の寿命は短い。そこで、テレビの前にルームランナーを置いて、歩きながら連ドラを見るなんてのはいかが?ダンベルでは手が止まる。階段の昇り降りや自転車漕ぎでは足が止まる。一定の位置にとどまらねばならないルームランナーがみそなのだ。週5日、1日30分はかならずルームランナーで歩きながらテレビを見る。ドラマ見たさに歩き始める。30分の運動が短く感じられるだろう。習慣にすれば効果が大きい。気をまぎらわせるための“ながら運動”のすすめである。

サプリも悪くない

私は基本的には食事の代替えとしてのサプリメント使用には賛成しない。しかし、運動の代替の効果はありそうだ。交感神経を活性化するなどしてエネルギーの消費を促す効果が期待できるものは多い。怪しげなものはいけない。あくまでも科学的にエネルギー消費の機構が説明されているものに限る。

ストレスもエネルギー消費を促すけれど

運動もストレスの一種である。体が緊急事態と錯覚してエネルギーをぜいたくに消費してくれる。だから運動は有効なのだ。
一方、職場の人間関係など、緊張もストレスでありエネルギーを余計に消費する。同じストレス系のエネルギー消費でも、精神ストレスでやせるのはよくない。明るいストレスとしておすすめできるのは運動だけである。運動は自発的にできる。いつでもやめられる。強制されるのは体に悪い。

出典:女子栄養大学出版部「栄養と料理」