年がら年中食べ歩いていると、初めて行くお店でも瞬時に良いお店かどうかを見極められるようになってきます。
例えば席数に対してスタッフが多いお店がありますが、これは常にお客さんが多く忙しいためで繁盛店によくみられる傾向です。さらにサービス業の人手不足が深刻な昨今でスタッフを揃えられるというのは働きやすい職場環境であることが多く、味だけでなく店主の人柄も良かったりします。
他にも良いお店の見分け方は色々あるのですが、分かりやすいものだと”老舗の路地裏酒場は大体良いお店”というのがあります。見つけにくい場所にあるにもかかわらず長年営業しているということは、そのお店を目指して訪れる常連さんが多いということで、それだけの理由、魅力があるはずだからです。
ただ路地裏酒場には入りづらいという難点があります。
予約もせずに、路地奥で偶然見つけたお店の暖簾をくぐるのは確かに勇気が必要です。私は酒場巡りでこれを繰り返していますが、扉を開けるときは未だに緊張と期待が入り混じった不思議な感覚に襲われます。
初めて行くお店はネットで下調べするのが当たり前になりつつある今、扉の先に何があるか分からないというのは、本屋で小説を衝動買いしたときのような未知の世界へのワクワク感を得ることができるので個人的には面白いと思っています。
マニアックな酒場だと扉を開けた瞬間に店主、常連さん達に一斉に見られて「だれ?」という顔をされることもありますが、その後話が弾み打ち解けて、帰り際「また来てねー」と言われると、自分の新しい居場所ができたようで嬉しくなります。こういう体験も酒場ならではの楽しみのひとつです。
そこで今回は路地裏酒場をテーマに酒場巡りをしたいと思います。路地裏酒場と一言で言ってもタイプは千差万別。今回はほんの一部ですが、それぞれに魅力を持つ路地裏酒場をご紹介します。※路地裏、辻子などありますが、ここでは路地裏を大通りに面していない道という定義にしています。
祇園の巽橋からすぐ。まさに祇園のど真ん中に山口西店があります。
高級店が立ち並ぶ祇園で、しかも路地裏ともなるとかなり入店難易度が上がってしまいますが、こちらはお値段も安く普通の居酒屋感覚で利用することができるので安心です。
このビルの中を奥へ進みます。
初めての方を連れていくと皆さん驚かれます。
ビルを抜けると京都らしい石畳が現れ、左手にお店が見えてきます。
山口西店は40年以上営業を続ける老舗酒場。
先代が築100年以上の町家を改装して営業を始めたそうなので、今では当たり前となった町家飲食店の先駆けといえるでしょう。
様々な用途で利用できるのもこちらの魅力のひとつ。
一人ならカウンター席、少人数なら小上がり、グループなら2階の座敷で。
料理は、おでん、煮物、サラダ、一品、揚げ物などお酒に合うものが幅広く揃っています。
若鶏の酒むし(700円)はあっさりとした鶏肉にからしとタレが絶妙に合います。
ホクホクフライドポテトに肉みそを付ける、ポテト肉みそかけ(650円)。
シンプルですが立派なアテです。
他にレタス肉みそサラダ(600円)などもあり。
鉄火めしは名物の一つ。
こちらはとろろ鉄火めし(850円)で、一人だとこれだけでお腹一杯になりますが、グループでシェアするのもおすすめです。
祇園の路地裏なのに安く飲めるという意外性は万人受けするので、仕事がらみの食事会などで利用すると喜ばれると思います。
祇園なので二軒目の選択肢も多いですし。
西洞院綾小路という街中ど真ん中で、ひっそりと佇む老舗酒場があるのをご存知でしょうか。膏薬辻子(こうやくのずし)という新町通と西洞院通の間に四条通から綾小路通りに抜ける細い道があり、その中にあります。
京都の方でも通ったことがないという方が多い道です。
綾小路通りから見た膏薬辻子。
うっすらと赤い提灯が見えています。
創業して40年以上になりますが意外と知らない方が多い、知る人ぞ知る隠れた酒場です。
BGMはなくテレビからもれる声と、冷蔵庫の機械音がなぜか心地いい店内。
まるで昭和にタイムスリップしたかのような不思議な感覚を覚え、初めての方でもどこか懐かしく安心感に包まれる、そんなお店です。
こちらのお店は一人鍋が名物なので、お一人様が結構多い。
和牛すき焼き、軍鶏鍋、天使の海老と牡蠣の寄せ鍋、とろゆば寄せ鍋、京鴨鍋…
どれを食べても美味しいのでお好みで注文すると良いと思います。
今回は京鴨鍋にします。
出来上がるまで熱燗をちびちびやります。
スピードメニューも色々とありますが、このイカ納豆(800円)がおすすめ。
たまり醤油をかけて混ぜていただきます。
粘り気の強い納豆とねっとりとしたイカの食感が絶妙で、卵黄とたまり醤油の濃厚な味わいがお酒を誘います。
とここで京鴨鍋(1400円)登場。
鴨肉もご覧の大きさ。他に葱、ごぼう、豆腐などが入っていて良い出汁が出ています。
漫画みたいに「はふはふ」言いながら一人で鍋を頬張るのがここのスタイル。
食後の雑炊も忘れずに。
奥の座敷で宴会も出来るのですが、やはり一人か二人で鍋をつつきながら酒とゆっくり楽しむ大人の酒場だと思います。
老舗の路地裏酒場を2軒紹介しましたが、新しいお店も一軒ご紹介します。
2018年5月にオープンしたばかりの酒場ですが、早くも名酒場の貫録を出しつつあります。
河原町松原の北東角にポツンとある行灯。
「一杯呑みはり〼?」と書かれています。
ちょっと気になってしまった私はもうこのお店の術中にはまってしまっています。
狭く、暗い道を奥へ。
本当にこんなところにお店があるのかと誰しもが思うはずですが、やがて奥のほうにぼんやり灯りが見えてきます。
老舗の路地裏酒場ならここに扉だけがあり店内は見えないことが多いのですが、こちらはガラス張りで見通しが良い。こういった造りは今風でまさに「進化系路地裏酒場」。
若者に人気のお店では、このバイスサワーを見かけることが増えてきました。
しそ梅エキス入りのさわやかな炭酸が特徴で焼酎割りがなかなか美味しい。
ハムカツ玉子(500円)はハムカツの上にたまごサラダが乗っています。こういうひと手間を加えるところにも店主のセンスを感じます。
ポテサラ(400円)だって普通には出しません。
パスタサラダと盛り合わせになっています。
名物はあばら塩煮込み(480円)で、どんなお酒にも合うアテです。
お店に入るまでの導線はまさにアトラクション。入店すればひと手間加えたハイセンスなアテとお酒がいただけますし、料理の値段はほとんど500円以下というから、再訪率が高いのも頷けます。
路地裏酒場の入門編として、お一人様、宴会、接待、デートなどあらゆるシーンで使えるお店です。
ちなみにこちらの営業時間は16時~体力が尽きるまで。
面白い。
今回は路地裏酒場にスポットを当て、老舗から新しいお店まで巡ってみました。
路地裏酒場というのは、本来お店としてはデメリットになる“分かりにくい”が逆にメリットになっています。
子どもの頃に友達と作った秘密基地は他人に見つからないからこそ魅力がありましたが、まさにこれと同ことだと思います。
いわゆる「隠れ家感」です。
そして路地裏酒場といっても、本当に様々な形態、雰囲気のお店があります。今回ご紹介できませんでしたが、まだまだ個性派、キャラの濃いお店がたくさんあるのでまた機会があればご紹介したいと思います。
とはいうものの私も知らない路地裏酒場が京都にはまだまだ溢れていますので、今宵もぶらり、あてもなく飲み歩いてみようと思います。
路地裏酒場に誘われるように。
一軒目 山口西店
京都市東山区花見小路通末吉町西入清本町374-2
二軒目 酒房菜々
都市下京区矢田町114-2
三軒目 大衆酒場こうじゑん
住所/京都市下京区幸竹町382-14
※価格等の情報は取材当時のものです。