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BUSINESS 2019.09.17 大門 弘幸

水田転換畑で畑作物の安定生産に挑む

皆さんは1カ月に何kgのお米を食べていますか?2018年度の統計では、年間一人当たりの消費量は53kgでした。1993年に大冷害があり平成の米騒動とも言われましたが、その時ですら消費量は66 kgありました。

一方、小麦の消費量は年間一人当たり32 kgです。また肉、牛乳、卵を多く取る食生活になっていることから、飼料の輸入量がトウモロコシで約1000万トン、その他の飼料を含めると年間約1500万トンと多く、この数値はコメの年間生産量780万トン(2018年度)の約2倍です。これらの数値を見ると、この国の主食は何だろうかと考えてしまいます。

水浸透良くし地力を補完

日本の農耕地は約450万haでそのうち水田は250万haです。50年近く続いた減反政策(コメの生産調整)で、現在のコメの生産面積は約150万haとなっています。減反は2017年度末で見直され、これからの水田農業は大きく変化し得る時代になったとも言えます。

補助金が出る飼料米への転換も経営上は一つの選択肢ですが、水田を畑として活用する『水田転換畑』で多様な畑作物の生産を積極的に進めることも重要です。京滋地域でも、稲・麦・大豆の輪作に加えて、新たな作物を導入し地域の特産物にしていくようなチャレンジが、農業の再生やその地域の活性化に必要ではないでしょうか。言うは易く行うは難しは言わずもがなですが、一方で農業後継者不足や農業の国際競争力強化に待ったなしの状況であることも事実です。

「水田転換畑」での作物の安定生産に向けた課題は、土壌の排水性の向上と減耗する地力の補完対策です。転換畑は元は水田なので水はけが悪い場合が多く、作物の根の伸長が劣り、梅雨が明けて水不足になると逆に乾燥害が出ます。つまり、栽培する作物や品種の『耐湿性』が収量や品質を左右します。

一方で、水田は酸素が少ないので土中の有機物が保持されますが、畑にして酸素が多くなると有機物が分解されて地力が徐々に減耗します。これらの対策としては暗渠(あんきょ:土の中に溝を作って排水する)で排水を良くし、堆肥で有機物を補充することです。しかし農地の大規模化が可能ならばその投資も有効ですが、中小規模農地や中山間地ではそれもままなりません。

緑肥導入、効果を再評価

そこで多様な植物の機能を利用する試みがあります。例えば、土中深くまで直根を伸ばす耐湿性の高い植物を栽培して土壌の深い層への水の浸透を良くしたり、窒素やリンの蓄積量が多い植物を導入して、それをすき込むことで地力を補完します。いわゆる『緑肥』の導入です。

特にマメ科の緑肥は窒素やリンを与えなくても旺盛に成長します。セスバニアやクロタラリアという植物がそれです。収穫した作物の残渣(茎や葉)をすき込むことも、土壌の空隙率を上げ、地力を補完することになります。古くから様々な効果が認められていた緑肥ですが、効果がきっちりと数字で表されることなく現在に至ってます。今、その再評価が必要であり、それが環境に優しい作物生産にもつながります。

5年前に開設した龍谷大学農学部の農場(大津市)でも、水田転換畑で大粒の落花生、大納言小豆、白小豆といった単価の高い作物を、緑肥を利用した作付体系の中で栽培する可能性を探っています。今、実際の農業現場での実証試験に取り組んでいます。

出典:2018年8月8日(水)京都新聞(初出時より見出しと本文の一部を改変)

大門 弘幸

だいもん ひろゆき

龍谷大学農学部資源生物科学科教授

大阪府立大学大学院生命環境科学研究科教授を経て、2015年より現職。農学博士。専門は作物栽培学。著書に、「作物学概論」、「作物栽培大系-飼料・緑肥作物の栽培と利用-」、「栽培学-環境と持続的農業-」など。「作付体系におけるマメ科作物の機能に関する研究」で日本作物学会賞受賞。