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【がんばり過ぎない食育】「歯科医・歯科衛生士」さんが教える口の健康づくり(後編)

石原 かんな

ライター・食育インストラクター

【がんばり過ぎない食育】「歯科医・歯科衛生士」さんが教える口の健康づくり(後編)

石原 かんな

ライター・食育インストラクター

「虫歯」を防ぎ、一生自分の歯で「食」を楽しむためには?

前編では、歯科医の観点から健康的な口をつくるためのアドバイスや、「天然の抗菌剤」と呼ばれる唾液の役割などを「ふじたか歯科クリニック」の藤髙英晃院長に伺って紹介しました。この後編では、虫歯を防ぐために必要な唾液の出し方や、噛むためにおすすめの食材などを、院長と食育アドバイザーの資格を持つ主任歯科衛生士の山下礼子さんに尋ねてみました。

「歯科医・歯科衛生士」さんが教える口の健康づくり(前編)はこちら

Q.質の良い「唾液」を出すためのコツを教えてください。

A.「水分をとる」「よく噛む」「噛める口を大切にする」ことです。

まずは「水分をとる」こと。唾液は血液が姿を変えたもので、血液のもとは水分です。そして、「よく噛んで食べる」こと。噛めば噛むほど唾液腺が刺激され、唾液が出てきます。また、よく噛むためには「きちんと噛める口」が維持されていることも大切です。虫歯や歯周病があってはしっかり噛むことができず、楽しく食べることもできませんよね。ですので、虫歯などを予防することは大切ですし、小さなお子さんがいらっしゃる方は「きちんと噛める口」をめざすことを意識して食事づくりなども行っていただきたいと思います。

「ふじたか歯科クリニック」の主任歯科衛生士である山下礼子さん。

Q.「噛む」ことは唾液を出す以外にもメリットはありますか?

A.「噛む」=「健康になる」ことと言えるぐらい利点はいっぱいです!

以下に、歯の病気を防ぐ(よく噛むと唾液がたくさん出て口の中をキレイにしたり、唾液の働きが虫歯になりかかった歯の表面をもとに戻し、細菌感染を防いで歯周病を防ぐ)以外のメリットを幾つか挙げてみます。
●味覚が発達:食べ物の本来の味がわかります。
●言葉の発音がはっきり:歯並びが良くなり、口をはっきり開けて話すとキレイな発音になります。
●表情が豊かに:口のまわりの筋肉を使うため、表情がとても豊かになります。
●脳が発達:脳細胞の動きを活発化し、子どもの知育を助けます。
●胃腸の働きを促進:消化酵素がたくさん出ます。
●全身の体力が向上:“ここ一番”と力が必要な時や、ぐっと噛みしめたい時に力が出ます。
このように、お子さんにとっては特に「味覚」や「発音」、「表情」や「知育」の面などで噛むことはとても重要なことなのです。
ゆっくりとよく噛むと脳細胞を刺激し、免疫力がアップして「セロトニン」が分泌されます。このセロトニンは「ハッピーホルモン」とも呼ばれ、心のバランスを整えたり、ストレスを軽減させるとも言われているんですよ。

Q.「噛む」ことを育てるためにぴったりの食材はありますか?

A.噛みごたえのある食材や、シャキシャキした歯ごたえのものなどがおすすめです。

例えば、リンゴや梨、柿など、しっかり噛まないと飲み込めない食材。噛むことでたくさん唾液が出ますし、顎も鍛えられます。また、甘いものが好きなお子さんが多いと思いますが、虫歯の原因になる砂糖を使うのではなく、食材そのものの天然の甘みを活かしたものをおやつにするのはよいですね。フルーツならそれが叶いますし、さつま芋などはふかしたり、焼いたりするだけで美味しくいただけておすすめです。これは、食材が持つ本来の美味しさをいただくという、子どもの「味覚を育てる」という意味でも有効です。
また、シャキシャキした歯ごたえのものは歯についた食べカスを取ってくれます。キャベツやニンジンなどの食材は比較的お子さんでも食べやすく、サラダやスープなど料理にも使いやすいですよね。
それから、そのまま食べられる小魚の煮干しもスーパーなどに売っています。ポリポリと噛めて栄養にもなるので、おやつに取り入れてみてはいかがでしょうか。

しっかり噛まないと飲み込めない食材や、シャキシャキした歯ごたえのある食材たち。

Q.他に、お料理する際のコツはありますか?

A.食材の「切り方」を工夫してはどうでしょう?

同じカレーを作るのにも、具材を少し大きく切る。また、例えばリンゴの皮をよく洗って、あえて輪切りにすることでサクサク噛みながら食べるようにするなど…。一口で30回噛むのが理想と言われていますが、なかなか難しいもの。だからこそ、食材の切り方を工夫して、よく噛めるようにするのがおすすめです。

Q.おやつを食べる際のアドバイスをお願いします!

A.量よりも「食べ方」が大切。回数を減らし、ダラダラ食べないことです。

甘い物を控えていても虫歯になりやすい場合には、食べ方に問題がある場合も。飲食後、口の中では細菌の生み出す酸や飲食物の酸によって歯の成分が溶け出し、その後に時間をかけて唾液が成分を歯に戻していきます。溶かす力が戻す力を上回る時間が長く続くと虫歯になってしまいます。
つまり、甘いものの量以上に「食べる頻度や時間」が問題になるのです。ひっきりなしに甘いものが口の中にあると唾液が歯を修復する時間が取れないからです。ゆえに、ダラダラとおやつを食べたり飲んだりするのではなく、できるだけ短時間で食べ、そして頻度を減らすこと。これがおやつのコツです。また、野菜ジュースやスポーツドリンクなど、ヘルシーなイメージのものにも砂糖は入っていますので注意してください。

Q.他にコツはありますか?

A.「姿勢」にも気をつけて、きちんと「噛める口をつくる」ことです。

姿勢が悪いと食べ物を飲み込むのが下手になりがちです。舌がうまく使えなくなってしまうんですね。
舌をうまく使うと、「ゴックン」と上手に筋肉を使って飲み込むことができるようになります。舌は話す時にも使う大切な器官でもあります。姿勢に気をつけてきちんと噛んで飲み込む。この繰り返しで、きちんと食べ物を取り入れたり、話すことが上手くなったりするのではないかと考えています。
また、日本人はお箸を使うがために前歯をよく使う人種です。お箸を使って口に食べ物を入れ、前歯で噛み、奥歯に送って再度噛み、「ゴックン」と飲み込む。お子さんは特にこの練習を繰り返すことで、しっかり噛んで飲み込めるようになり、楽しく美味しくご飯をいただけるようになります。まずは、きちんと噛める口をつくることが、歯の観点では「食育」のスタートだと思います。
また、おやつに「キシリトール」や「フッ素」を配合したガムなどを取り入れるのもよいですよ。よく噛むことで唾液がたくさん出て口内環境を整えることができるでしょう。ただし、食べ過ぎるとお腹が緩くなったりすることもあるようなので量には注意してください。

「ふじたか歯科クリニック」の受付には、キシリトールやフッ素入りのガムなどが並んでいる。

Q.「食」における「歯」の重要性について、改めて教えてください。

A.「自分の歯で生きる」楽しさを全うしてほしいと思います。

今は「飽食」の時代と呼ばれて久しいですよね。ですので、より豊かな食事、美味しい食事が求められ、幸せな食事や楽しい食事は当たり前の時代です。ゆえに、貧しくて生きられないということはない。
しかし、この時代でも「歯」がないと食事が楽しめないという事実はあります。もちろん、入れ歯やインプラントなど技術は進化していますが、食べ応えなど五感で存分に食を楽しめるのは自分の歯があるからこそです。例えば、髪の毛が口の中に入ったのを敏感に察知できるのも自分自身の歯があってこそ。入れ歯はここまで敏感ではありません。
皆さんのお子さんが一生、自分の歯で食を楽しめるように。死ぬ時には歯がすり減ってつるつるになって使い切るくらいがよいのです。お子さんが「自分の歯で生きて、人生を楽しむ」ためにも、皆さんには歯にもっと関心を持っていただければと思います。

食を楽しむには、「自分の歯で噛む」こと、しっかり「唾液を出す」ことが重要!

とにかく一生「歯」を大事にしないと「食」を楽しめないこと。また、「噛む」ことや「唾液を出す」ことの重要性もわかりました。そのためのコツも、藤髙先生や山下さんのアドバイスで明らかになりました。
これを読んでくださったお父さんやお母さんが、今日から少しでも歯に関心を持って、お子さんの仕上げ磨きを一段と頑張ったり、噛むための食材選びや切り方を工夫したり…。そんな変化が生まれれば大変嬉しく思います。
それらは毎日の積み重ねではありますが、先生がおっしゃっていた通り、習慣化すればそれほど難しいことではありません。大切なお子さんが一生自分の歯で美味しく食べられるような取り組みを、今一度考えてみてはいかがでしょうか。

取材協力:ふじたか歯科クリニック(大阪府豊中市)

https://www.fujitaka-dc.com/

撮影:井原 完祐