皆さんは野菜を食べていますか?
私は子供の頃は苦手な野菜が多かったのですが、年を取るにつれて野菜の美味しさが分かるようになってきました。野菜を食べることのメリットの一つに、ビタミンなどの栄養素を摂取できることがあげられます。ビタミンだけであればサプリメントで補えるかもしれませんが、健康には食物繊維やミネラル、またそれぞれの野菜が持つ機能性成分をとることも重要になります。
それでは野菜の栄養価をさらに高めることは出来るのでしょうか?
近年では、それぞれの栄養成分が植物のなかでどのように合成されるかについての研究が進み、栄養成分を作るのに必要な酵素の遺伝子がわかってきています。
例えば、ヒトの体内でビタミンAに変換されるβカロテンは研究が進み、遺伝子組換え技術により、いくつかの植物種ではβカロテンの含量を改変できることが報告されています。このような遺伝子組換え作物としてはゴールデンライスが有名で、フィリピンで商業栽培が認可されています。
私達は、果実にβカロテンをほとんど含まないナスにβカロテンの合成に関与するフィトエン合成酵素の遺伝子を導入して、果実にβカロテンを蓄積させることに成功しました(写真)。ナスを消費するインドやパキスタンの貧困地域では幼児のビタミンA欠乏症が問題になっており、遺伝子組換えナスがこのような問題の解決に役立つことを期待して研究しています。
また、丈夫な骨を作る働きや、免疫機能を調節する働きを持つことで注目されているビタミンD(ビタミンD2やD3)についても研究が進んでいます。
ビタミンD3は日光に当たることにより私たちの皮膚で作られますが、これはコレステロール合成の過程で生じる7-デヒドロコレステロール(7-DHC)という物質が紫外光よってビタミンD3前駆体に変換されるためです。しかし、体内で作られるビタミンD3には限りがあるので、食品で補う必要があるとされています。
ビタミンDは野菜にはほとんど含まれず、魚やシイタケなどのきのこに含まれることが知られています。最近の研究では、ゲノム編集技術によりトマトに7-DHCを蓄積させることが、英ジョン・イネス・センターのCathie Martin教授らのグループにより報告されました。
トマトは7-DHCを作ることは出来るのですが、この物質はコレステロールに変換され、コレステロールからはステロイドグリコアルカロイドと呼ばれる害虫などから身を守る物質が作られます。
そこでゲノム編集技術により、7-DHCをコレステロールに変換する7-デヒドロコレステロール還元酵素の遺伝子を壊したところ、7-DHCが葉や果実に蓄積することがわかりました。
さらに、7-DHCが蓄積した葉や果実に紫外線を照射すると、ビタミンD3が合成されることも示されました。このような技術を応用することにより、野菜がビタミンDの新たな供給源となる可能性が期待されます。
血圧を下げる効果やリラックス効果が期待される機能性成分であるGABAをゲノム編集技術で高蓄積させたトマトが既に実用化されており、将来は栄養価や機能性成分を高めた様々な野菜が食卓に並ぶ日が来るかもしれません。