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本場のスペインバルは「地元民の社交場」。値段も流儀も日本とはちょっと違う!

安藤 真次郎

龍谷大学文学部 教授

本場のスペインバルは「地元民の社交場」。値段も流儀も日本とはちょっと違う!

安藤 真次郎

龍谷大学文学部 教授

スペインへは3回の長期留学と、スペイン思想史研究や学生引率などで40回ほどの渡航歴があります。何度も訪れたスペインで、必ず足を運ぶのが「バル」です。

近年、日本でもスペインの料理やお酒を楽しめるスペインバルが増えていますが、スペインのバルは、日本のスペインバルとは楽しみ方も流儀もちょっと異なります。今回は、本場・スペインのバルについてお話ししましょう。

地域の料理を小皿やピンチョスで楽しめる

スペインのバルは、お酒だけではなく軽食やコーヒーが楽しめる場所。カウンターで立ち食い・立ち飲みをするスタイルのお店がほとんどです。タパスという小皿料理や、串刺しにしたひと口サイズのおつまみ「ピンチョス」を食べながら、コーヒーやビール、ワインを飲みます。

ちなみに「タパス」は、「タパ」がフタという意味で「タパス」はその複数形です。その昔、グラスに入ったビールに虫が入るのを防ぐために小皿でフタをしたことから、小皿料理が「タパス」と呼ばれるようになりました。

スペインの面積は日本の約1.3倍。3方を海に囲まれており、山脈も大きな湖もあります。特徴のある地域が集まった国なので、スペインは「小さなヨーロッパ」と言われています。
バルでは、その地域ごとの料理に出会えます。北東部は豆の煮込みや豚の腸詰め、北西部はガリシア風タコなど魚介料理、東部はパエリアといった米料理、中央部は仔豚の丸焼き、アフリカに近い南部はイカや海老などの揚げ物が有名です。

ドリンクはどのお店でも1〜2ユーロ(約170〜340円)で、アルコールには必ずおつまみがついてきます。カーニャという生ビールなら約200mlで約2ユーロ。小皿料理も1〜2ユーロ。チップは基本的に不要なので、予算3〜4ユーロ(約510〜680円)くらいあれば、つまみ付きで1杯飲んでもう1皿オーダーできます。

※1ユーロ=170円換算(2024年6月現在)

スペインではビールやワインが水と同じ価格帯で安い。つい飲みすぎてつぶれないかと心配してしまいますが、スペイン人はお酒が強い人が多いです。スペインの飲酒可能年齢は、4つの自治州で16歳、13の自治州で18歳。大学の学食では、教授たちが昼からワインを傾けている光景もよく見かけます。バルでは、若者のグループはバケツのような容器にラムやジンとコーラを入れてシェアすることが多いようです。

若者もシニアも、とにかく陽気。お酒を飲んでしんみりしたり愚痴を言ったりする人はいません。酔ったらどうなるかというと、楽しく歌って踊る。日本のカフェや酒場では決して見かけない光景です。スペインのバルに行くと人生観が変わりますし、私も実際に変わりました。

お会計は基本的に自己申告制。自分が飲食した内容を伝えて現金で払いますが、最近はカード払いも増えているようです。ワリカンは無粋とされており、誰かがまとめて支払います。そして、次のバルに行ったら別の人がまとめて支払います。
大学生グループは、1人につき数ユーロを1つのお財布に入れておき、その財布からまとめて支払うことが多いようです。いずれにせよ、個々で財布を出すことはありません。

本場のバルは「滞在時間は約30分」「ゴミは床に捨てる」が流儀

スペイン人は1日に5回食事を摂ると言われていますが、実際はおやつを含めた回数です。朝7〜8時ごろに朝食、11〜12時ごろのおやつタイム「オンセ」では、ドーナツとコーヒーといった軽食を食べます。公務員は14〜15時ごろに仕事を終えるので、その後に昼食を食べます。昼食は1日の食事のメインなので、量は多めです。

昼食後、17時ごろまでシエスタ(昼寝)をする人もいます。18時ごろにおやつを食べ、22時ごろに軽い夕食を食べます。スペインの夏は22時ごろまで明るいので、1日が長いのですよ。

バルの多くは個人営業で、朝7時から夜0時まで通し営業をしています。スペイン人は朝・昼・晩だけでなく、おやつや軽食を食べるためにもバルを訪れます。

私はスペイン留学時代、毎日の朝食をいつもバルで食べていました。カフェ・コンレチェというミルク入りコーヒーと、トルティーヤ(スペインスタイルのジャガイモ入りオムレツ)の組み合わせがお決まりでした。

バルの滞在時間は30分ほど。どの時間帯でも、決して長居はしません。週末になると、スペイン人はバルを3〜4軒「はしご」します。

爪楊枝や紙ナフキンは、床にポイッと捨てるのがバルの流儀。日本人の感覚だと驚いてしまいますが、スペインのバルではそれが粋だとされています。「床が汚れているバルは、繁盛店の証」とも言われているんですよ。

大人も子どもも集うバルは「街の社交場」

スペイン人の生活は「壁の外にある」と言われています。温暖な気候と陽気な国民性のおかげか、ご飯もおやつも、コミュニケーションを取るのも「家の外」が基本。そんなスペイン人にとって、バルは「地域の社交場」。1日に何度も馴染みのバルに足を運び、友人や仕事仲間、家族とともに語らいます。家族で利用する場合は、子供を連れてくる人たちが多いのも特徴です。

スペインのバルを訪れたら、まず「¡Hola! (オラ!)」と明るく挨拶をしましょう。何も言わずに入店するのはNGです。スペインではキリスト教徒、ユダヤ教徒、イスラム教徒など、人種も宗教もさまざまな人たちが暮らしています。そのため、挨拶は「私は敵ではありません。仲間です」という意志表示の意味があります。挨拶をして友好の気持ちを伝えることで、心地よく過ごすことができますよ。

このように、スペインのバルは日本とはスタイルがちょっと違います。バルを120%満喫するコツは、スペイン文化を理解して大いに楽しもうという気持ちです。スペインのバルでは、人生を大いに楽しむ地元民たちの姿を間近で見ることができます。スペインを訪れたらぜひ、バルを巡ってみてくださいね。