世界の離乳食シリーズ、第4回は東南アジアよりタイとフィリピンについてお伝えします。この2国の共通点は、いずれも女性の社会進出が目覚ましいということ。産後まもなく仕事に復帰して働く忙しいお母さん達はどのような育児をし、赤ちゃんにどんな離乳食を食べさせているのでしょうか。さっそくタイから見ていきましょう。
タイでは離乳食のスタートは比較的早く、生後3ヶ月から開始する家庭が多いようです。なかには生後1ヶ月からスタートするという人も。WHOが推奨している離乳食開始時期が生後6ヶ月からですから、ずいぶん早いですよね。1ヶ月というと、赤ちゃんはまだ1日のほとんどを寝て過ごしている時期です。
背景にあるのは、タイの社会事情。男女の賃金格差や教育格差がほとんどみられないタイでは、女性の社会進出がとても盛んです。2018年の国際ビジネスレポートの調査では、タイ企業の女性管理職が占める割合は42%で、フィリピン(47%)、インドネシア(43%)に次いで35か国中3位と非常に高くなっています(ちなみに日本はわずか5%、しかも年々減少傾向のようです)。
タイでは産前産後を問わず90日間の産休が保障されていますが、産休をフルに活用する女性は少なく、多くの女性が産後ひと月足らずで職場に復帰するそうです。
特に農村部には仕事が少ないため、都会に働きに出た夫婦は、子供ができても子を郷里の両親や保育園、お手伝いさんなどに預けて働き続けるのが一般的。そのためタイの母乳育児率の平均は15.1%、首都・バンコクではわずか1.7%です。日本の母乳育児率が生後1か月で51.3%、 生後3か月で54.7%であることから比較すると、ずいぶん低いですね(参考資料①②)。
ちなみに、世界保健機関(WHO)と国連児童基金(UNICEF、ユニセフ)は、乳児が生後6ヵ月間母乳だけを飲み、その後栄養が十分な補完食を食べながら2歳かそれ以上まで母乳を飲み続けることを推奨しています。
さて、生後3ヶ月になったタイの赤ちゃんは離乳食に何を食べるのでしょうか?
それは日本でもお馴染みの「バナナ」です。タイには、なんと100種類以上ものバナナがあり、その中でも赤ちゃんが食べても良いとされているのは、「クルアイ・ナームワー」(クルアイはバナナの意味)という種類のみだそう。「クルアイ・ナームワー」は、タイでは最もメジャーなバナナで、見た目は太くて短く、味はすっきりとした甘さ、ビタミンも豊富です。
ちなみに、日本人が思い浮かべるもっともポピュラーなバナナは、クルアイ・ホームという品種。これも含めて、クルアイ・ナームワー以外の品種は、赤ちゃんのお腹にあまり良くないといわれているようです。
タイの赤ちゃんは、まずこのクルアイ・ナームワーの外側の甘い部分だけをスプーンで潰してもらって食べます。そして、慣れてきたら「バナナ+お粥」、「バナナ+ゆで野菜」というように、なんでもバナナに足して食べるのだとか。
バナナは年間を通して収穫でき、一房20本くらいで20〜30バーツ(100円前後)とリーズナブル。庭にバナナの木がある家庭も多いといいますから、とっても身近でお手軽です。栄養面でも、ビタミンB群や糖質を豊富に含み、消化も良いため、離乳食に最適な食材のひとつといえるでしょう。食物繊維も豊富で、特に便秘気味の赤ちゃんにはおすすめです(離乳食を始めたばかりの赤ちゃんは便秘になりやすく、パパママを心配させることも多いのです)。
何よりあまーいバナナは世界中の赤ちゃんの大好物!赤ちゃんがなかなか離乳食を食べてくれなくて困る時の強い味方ですから、初めから何でもバナナを加えるタイ流離乳食は、ある意味合理的。
タイ人がよく使う言葉「マイペンライ」は、“大丈夫“とか“なんとかなるさ“という意味。離乳食も難しく考えすぎず、マイペンライの精神で、パパママが気持ちに余裕を持って楽しむことが大事かもしれませんね。
また、タイの赤ちゃんは6ヶ月には、ほとんど大人と同じ食事になっていきます。これまた早い!日本の赤ちゃんが離乳食を食べ始める頃には、タイの赤ちゃんはもうなんでも食べちゃっているのです(もちろんタイでも家庭によって差がありますが概して早いようです)。
ちなみにタイ料理といえばトムヤム・クンやグリーンカレーなど激辛料理が有名ですが、さすがに唐辛子などの香辛料は赤ちゃんには食べさせず、小学生くらいになってから徐々に慣れさせていくそうです。それでも十分早いですよね。
お次は、タイよりもさらに女性の社会進出が盛んなフィリピンについて見ていきましょう。女性の社会進出はASEAN諸国でTOP、経済成長率もここ数年6〜7%で伸びており、フィリピンは、「世界の経済成長に影響を及ぼす新興経済国」でインドに次ぐ世界第2位にもランクインしています(オックスフォード・エコノミクス2019年調査による)。さらに、フィリピンの平均年齢は約23歳(日本は約46歳)で若年層の人口比率が高いのが特徴。子供と若者が溢れる活気のある国です。
子だくさんで、両親は基本共働き。母親は産後2〜3ヶ月で仕事に復帰するフィリピンでは、子供はみんなで育てます。実家や親戚に預けっぱなしは当たりまえ。実家もたいがい大家族ですから、親戚や従兄弟たちと一緒にワイワイ育っていきます。近くに身内がいなければ、近所のおじさんおばさんも喜んで子育てを手伝います。フィリピン人は、家族をとても大切にしますが、同じように近所の人や友人など他人も大事にする国民性。キリスト教徒が多いことから助け合いの精神が根付いており、自分の子供も他人の子供も同じようにかわいがる愛情溢れる人が多いそうです。
また人件費の安いフィリピンでは、昔から中流以上の家庭ではメイドやナニー(シッター)を雇うのもごく一般的。
毎日朝から夕方までナニーが来て、離乳食はもちろん、着替えもお風呂も、保育園のお迎えも子供のお世話は全部ナニーがしてくれます。フィリピンのパパママは子供が生まれたからといって働き方やライフスタイルを変える必要がなく、産後でも留学したり、転職したり、遊びに行ったり、とっても自由なのだそう。子育ては必ずしも親がやらなくてはならないという認識自体がなく、できる人ができる時にみんなで協力し合ってやればいい、というゆるやかな考え方だそうです。
フィリピンでは、離乳食に決まり事はほとんどありません。スタートはだいたい生後6カ月頃で、最初はタイと同じくシリアルやおかゆなどにバナナ、マンゴー、パパイヤなどのフルーツからはじめますが、そこからのスタートダッシュがすごいんです! 2週目にはおかゆに肉や魚、野菜を入れ、3週目には塩味を、4週目にはニンニクなどの香味野菜も食べさせてしまいます。日本では赤身の肉を食べさせるのは離乳食後期といわれる生後9〜10ヶ月ごろ。ニンニクも後期から(しかも刺激が強いため「香り付け程度」でとされている)ですから、フィリピンの離乳食は超特急です。
骨付鶏でとった濃厚な出汁で米を炊いたフィリピンの国民食的お粥「ルーガウ」、牛や豚のスープで炊くお粥「ゴト」などは離乳食の定番ですが、本来これらのお粥は炒めた玉ねぎ、ニンニク、生姜などの香味野菜をたっぷり効かせ、レモンや魚醤でアクセントをつけるのがお約束で、日本のお粥とは同じ料理とは思えないほど味がしっかりとして食べ応えがあります。もちろんフィリピンでも赤ちゃん向けには最初は味付けをせずに食べさせますが、ひと月で正式な「ルーガウ」が食べられるよう離乳食は進んでいくのです。そして、生後10か月になる頃には、もうなんでも食べていいとのこと。早くから多くの食材を食べることによって、好き嫌いのない子にするのがフィリピン流だそうです。
フィリピンで小さな子供を連れて歩けば、「なんてカワイイの!」と誰かが寄ってきて、困ったことがあれば助けてくれます。日本では子供が騒ぐのが怖くて、電車やバスにも乗りにくい、レストランにも行きづらい・・なんて思うこともありますが、フィリピンではそんな心配も一切無用です。子供だらけのフィリピンでは、子供は騒いで当たり前。スーパーでも、公園でも、公共交通機関でも大騒ぎしています。それでも親が怒られたり、注意されるということはまずありません。たとえ高級フレンチレストランで泣きじゃくろうと、誰も気に留めません。それどころかきっと、お店のスタッフが笑顔でやってきて「食べ終わるまで抱っこしててあげるよ」なんて子供の相手をしてくれることでしょう。社会がおおらかで、親も子ものびのびと生活できるフィリピン。日本からの移住者が年々増加しているというのも納得です。
今回は、同じアジアでも、日本とはかなり異なる価値観で子育てをおこなっているタイとフィリピンの様子をお伝えしました。日本では離乳食の進み方が教科書通りでないと!と意気込みすぎてしまったり、さまざまな種類の食材を食べさせないと手抜きのように感じてしまうパパママも多く、1人目の子で頑張りすぎたために2人目が離乳食期に入るのがブルー、、、なんて人も。でもタイやフィリピンのように離乳食のプレッシャーからフリーダムな国もあるんだと思えば少し心が軽くなるかもしれないですね。
次回の「世界の離乳食シリーズ」はアジアをでて、ヨーロッパを調査してみたいと思います。次回もお楽しみに!
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参考文献 :
①タイの母乳育児率
https://core.ac.uk/download/pdf/132361698.pdf
②日本の母乳育児率
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000134460.pdf