前回に賢さを説明したコナガは、翅にダイヤの形があるため英語ではDiamond-back mothと表記し、漢字では小さい菜っ葉を食べる蛾で、小菜蛾と表記されます。誰が名付けたのか分かりませんが、英語でも日本語でもいい名前だなあと思うのですが、名前負けか、逆に名は体を表す、の方なのかわかりませんが、人にとっては難防除害虫として煙たがられています。
西アジア原産なのですが、現在は熱帯から寒帯まで世界的に広範囲に生息し、アブラナ科植物のみを食べます。コナガは、成長が早く、暖かい地域では年12世代繰り返すことができます。そのため、薬剤抵抗性の獲得が早く、難防除害虫として知られています。
キャベツがコナガの幼虫に食べられると、キャベツは特有の匂いを出します。その匂いを頼りに、コナガの天敵であるコナガサムライコマユバチ(コナガコマユバチ)がキャベツに引き寄せられます(前回までの話)。コナガに食べられた時に出す特有の匂いを人工的に合成できれば、多大な被害を受ける前にコナガコマユバチを誘引し、被害を最小限に抑えることができるはずです。
そこで、高林純示氏(京大名誉教授)は研究所や企業と協力し、京都府美山町のミズナ栽培ハウスでこの研究に取り組みました(著者もそのプロジェクトに参画しました)。コナガに食べられたキャベツからは検出できるだけでも20種以上の匂いが放出されます。まず、そのうちのどの成分に誘引性があるのかを調べたところ、単一成分では誘引されず、4つの成分を適切な分量で混ぜたときに初めて誘引性が確認されました。
そこで、実際のミズナハウスという大きな空間でハウスの外からコナガコマユバチを誘引するための適切な匂い濃度や、徐放性を確保するための素材などを検討し、美山町のミズナハウスでの実証試験をしました。また、コナガコマユバチの餌としてハチミツを水で薄めた液の天敵活性剤も開発しました。ミズナ農家さんに協力を仰ぎ、天敵誘引剤を設置させてもらい(写真)、定期的にコナガの発生量を調べました。その結果、天敵誘引剤と天敵活性剤を設置したハウスでは、設置していないハウスよりもコナガの発生が抑えられました。天敵を利用した新しい害虫防除技術の一つになります。
ミズナハウスの写真
『植物が害虫に食べられると放出される匂いは天敵を誘引する』というこの現象は、さまざまな植物―害虫―天敵の間で明らかになっています。天敵各種が誘引される匂い成分ブレンドを明らかにすれば、農薬を使わずに対象となる害虫を防除できる可能性が高いので、この技術を確立したいと考えています。