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TRIVIA 2019.02.27 Mog-lab取材スタッフ

近江米のおいしさ、大切さを再発見 「もっと食べよう「近江米」!フォーラム」開催レポート

2018年12月16日(日)、龍谷大学瀬田キャンパスにて、龍谷大学と滋賀県米消費拡大推進連絡協議会との共催で、「『もっと食べよう近江米』フォーラム ~地産地消に学ぶごはんのおいしさ大切さ~」が開催されました。年々減少傾向にある米の消費、特に若い世代の消費減退を食い止めるとともに、さらなる近江米のファンを獲得するためにさまざまな提言が行われた中から、注目の2つの座談会の様子をレポートします。

対談 三日月大造滋賀県知事×伏木亨教授 「『食べる』健康づくり・地産地消」

本フォーラムの目玉のひとつが、日々の健康を支える「お米」について地産地消の観点から、三日月大造滋賀県知事と龍谷大学農学部食品栄養学科 伏木亨教授が語り合う対談です。お話は、滋賀県が最新の国の平均寿命調査で男性が1位、女性が4位に、東京大学の調査で平均寿命・健康寿命共に1位となった快挙の要因分析から始まりました。

三日月知事によると、県で調査を行なった結果、滋賀県民は以下のような健康的な食習慣、生活習慣が身についていることがわかったそうです。

・喫煙や多量飲酒をする人が少ない
・塩分の摂取量が少ない
・スポーツやボランティア活動に勤しむ人が多い
・ひとり住まいの高齢者が少ない
など

一方で、野菜摂取量が他県に比べて少ないことも明らかになったそうで、三日月知事は「健康長寿日本一」を今後も継続させるため、県を挙げての食生活改善に力をいれていきたいと語りました。

バランスのよい食生活に欠かせないのが、滋賀県が誇る近江米の活用です。澄んだ水、肥沃な土壌に恵まれた滋賀県は、米の生産量が多く、品質も優れていることから「近畿の米蔵」と呼ばれるほど。三日月知事からは、近江米の代表品種のほか、ほどよい粘りと甘みが特徴で冷めてもおいしく、さらに環境にもやさしい新品種「みずかがみ」、和菓子に欠かせないブランドもち米で、絹のようになめらかな「滋賀羽二重糯(しがはぶたえもち)」などの紹介がありました。

三日月大造滋賀県知事

また、三日月知事と伏木亨教授は「滋賀県には、お米に合う魅力的な食材が豊富にある」として、日野菜や近江かぶらなど近江の伝統野菜の漬物、すじえびと大豆を炊いた「えび豆」「もろこの炊いたん」など琵琶湖の湖魚を使ったお惣菜、鮒寿司をはじめとする発酵文化の魅力を語りました。話は広がり、大津に墓所がある俳人 松尾芭蕉の話題も。芭蕉はこよなく近江を愛したことで有名ですが、実は近江で詠んだ句の数が一番多いそうです。三日月知事はこの理由として、近江の人々の心温まるもてなし、さらに「近江のおいしい食事や酒にも惹かれたからではないか?」と推測していました。

龍谷大学農学部食品栄養学科 伏木亨教授

農芸化学・栄養化学を専門とする伏木教授からは、旬の素材やごはんのおいしさを引き立てる「おだし」の重要性についての提言も。近年は“うまみ”が世界共通の味覚とされていますが、ある研究によるとうまみの感覚は先天的に養われるものだそうです。一方、おだしの香りに対する嗜好性は後天的なもの。「日本のおだし文化を未来に受け継いでいくためには、食育を通して幼い頃からおだしの香りにふれさせることが大切」と語りました。

さらに伏木教授から、若者の米離れが激しいと言われているものの、詳しい調査をすると、「彼らが食べたい主食」の上位の多くを丼やおにぎり、ピラフなどの米類が占めているという指摘もありました。つまりお米への潜在ニーズはあるものの、さまざまな障壁によって消費が妨げられているというわけです。お二人はライフスタイルが変化し、未婚者や核家族が増えていくなか、「一人分を炊いて食べる」煩雑さを避けるアイデア、時代にあう新しい食べ方を模索する必要性があると提言。また、33の蔵元を有する滋賀県の日本酒が今、国内外で高い評価を受けていることから、日本酒や原料である酒米の生産拡大も大いに期待できると結びました。

座談会 和食の第一人者から学ぶ、おいしいお米の食べ方

続いて行われたのは、京都を代表する和食料理人3名と伏木亨教授による座談会です。ゲストは、一子相伝なかむら 六代目主人 中村元計氏、京料理直心房さいき 三代目主人 才木充氏、京料理木乃婦 三代目主人 高橋拓児氏。御三方とも龍谷大学農学研究科 博士後期課程に在学中で、料理を科学的視点から見つめ直すことで新しい食の可能性を追求されています。

司会の龍谷大学農学部食品栄養学科 伏木亨教授

最初にゲストの皆さんから「家庭でおいしくご飯を食べるヒント」を紹介いただきました。直心房さいき 才木氏からは「家庭で料亭レベルのご飯を炊く」コツについて。つやつや、ふっくらに炊き上げるポイントは「米と水の量を正確に測ること」。米150g(1合)に対し、水の量1.1〜1.2倍(約200cc)が基本となります。計量カップ(容積)を使うと余計な隙間ができるため、グラムで計量するのがよいそうです。また、最初にお米を洗う水は、心白(しんぱく・米の中心)にまでしみ込むため、「できるだけきれいな水を使うことも大切」と才木氏。また、土鍋を使うとゆっくり時間をかけて加熱できるため、米のうまみ成分をより抽出できる効果もあるそうです。

右:京料理直心房さいき 三代目主人 才木充氏、左:京料理木乃婦 三代目主人 高橋拓児氏

京料理木乃婦 高橋氏からは、お弁当用のご飯を炊くポイントの紹介がありました。「一升に対して50ccの日本酒を加える」と、ご飯の表面の乾燥を防ぎ、かつツヤが生まれるそうです。また、日本酒に含まれるアミノ酸(うまみ成分)の効果でおいしさも増すというから驚きです。使用するお酒は、淡麗辛口よりも、純米系のふくよかで味の濃いタイプがよいとのことでした。

右:一子相伝なかむら 中村元計氏

一子相伝なかむら 中村氏は、冷蔵庫の余りもので炊き込みご飯を作るコツについて。具材は、油揚げやちりめんじゃこなど何でもOKとのことです。ポイントは、おだしの味を「お吸い物より少しに濃いめにすること」。おだしの代わりに、塩または醤油と日本酒でも代用できるそうです。「日本酒はおだしと考えるとよい」と中村氏。高橋氏も語られたように、お酒に含まれるうまみ成分がほど良い調味料になると言います。目安は、2合のお米に50ccまで。この量以下なら、炊飯の過程でアルコールを十分飛ばせるとのことです。

老舗料亭直伝のおせちレシピ

また、フォーラム参加者のために御三方が考案した家庭用「おせちレシピ」の発表もありました。

一子相伝なかむら 中村氏の提案は「鯖味噌煮」。鯖は多少鮮度が落ちたものでもよいそうで、白味噌と赤味噌を10:1の配合で合わせ、刻み生姜を合わせると、上品な味に仕上がるそうです。

京料理直心房さいき 才木氏は“洋風おせち”として「寄せチーズ」をご紹介くださいました。プロセスチーズに昆布だし、薄口しょうゆを加えて蒸し、柔らかくのばしたところに、ニンジンや木耳、ハム、エビのみじん切りなどを加えて寄せ直して仕上げます。日本酒やワインとも相性抜群とのことです。

京料理木乃婦 高橋氏の提案は、市販の栗甘露煮(瓶詰)で作る「栗葛餅」。2/3ほどをフードプロセッサーでなめらかに攪拌したものに白玉粉と葛粉を加え、残りの栗を上に飾って冷やせば出来上がり。お正月の定番「栗きんとん」をアレンジした、和のスイーツ仕立ての一品です。

木乃婦・高橋拓児さんが考える、食と米の未来とは

フォーラム終了後、京料理木乃婦 三代目主人 高橋拓児氏に「近江米との関わり」「料理人が農業や科学を学ぶ意義」についてお話しいただきました。

京料理木乃婦では現在、安曇川(滋賀県高島市)のある農家が作ったコシヒカリをお弁当の米に使用しているそうです。選定基準は「冷めてもおいしいこと」。毎年、全国から約15銘柄を集めてブラインドテイスティングをして選び抜いているという高橋氏。「鮎の産地として名高い安曇川は、美しい清流が自慢。農家さんの技と水の恵みが見事に融合したのでしょう。近江米の今後にますます期待が高まります」と力強く語られました。

また、高橋氏のような第一線で活躍する料理人の方が大学で学ぶ意義を尋ねると、こんな答えが返ってきました。「料理人が料理人を指導する従来の育成システムでは、伝統を受け継ぐことができても、新しいものづくりやブレークスルーは生まれません。日本料理はいずれ限界を迎えてしまうことでしょう」。それを乗り越えるために、料理に科学や農業、医学、哲学、文学など、異ジャンルの思考をクロスオーバーさせる「ダブルライセンスの視点」が必要だと語ります。ご自身も大学院で緻密な研究や実験を重ねてきたことで、味覚と成分の関係について理解が深まり、料理にロジカルな視点や発想が加わったと言います。現在は、ワインと日本料理の関係について研究を進めている高橋氏。高橋氏のようなパイオニアの活躍は、きっと米や食の新しい未来を切り拓いていくことでしょう。