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熱力学的ダイエット論 最終回 ー巷のダイエットの真偽ー 【第3弾】

伏木 亨

龍谷大学名誉教授、農学博士

熱力学的ダイエット論 最終回 ー巷のダイエットの真偽ー 【第3弾】

伏木 亨

龍谷大学名誉教授、農学博士

体を動かしてエネルギーを消費する

運動や仕事は、苦しいわりには意外に消費エネルギーは少ない。それでも体からエネルギーを逃がすことはなかなか困難であることを考えれば、運動は確実にエネルギーを消費する行動として貴重である。
運動がエネルギーをどれだけ使わせたかは、酸素の消費量で正確に計算することができる。ちなみに、座った状態では基礎代謝(1時間に60kcal程度)の1.2倍、立てば1.4倍、歩けば約3.2倍、軽い掃除で2.7倍のエネルギー消費があると計算されている。ヨガ、太極拳、空手、ボクササイズ、ジャズダンスなど、由緒正しいものから怪しげなものまで、筋肉を使い汗が出るほど身体を動かせばエネルギーは確実に逃げてくれる。

では、体を揺すればやせるだろうか。筋肉に負荷をかけずに外部から単純に揺すっただけではエネルギーの逃げはあまり多くない。無理な体勢の維持や足踏み、手の動きなどを組み合わせるとエネルギーの消費は増えるだろう。運動によるエネルギー消費は体脂肪やグリコーゲンが酸素によって燃やされることが基本である。燃焼が起こると体が酸素を求めて心拍数が上がったり呼吸が速くなったりする。心拍も上がらない運動では全身的な脂肪燃焼効果はないのであらう。

食べ方でエネルギーの逃げを変化させることはできない

低炭水化物ダイエットや高脂肪ダイエットではエネルギーの逃げる最終的な出口が不明である。体が猛烈に熱くなるとも思えない。結局、口に入れた食べ物の総エネルギーが普通の食事に比べて大きいか小さいかだけの問題ではないかと思われる。特に高脂肪等を持ち出す意味はないように思われる。
詳細不明の植物の成分や抽出物はどうか。体温が高くなるか食物が糞便中に出ていくかがポイントである。それ以外の多くは無効と考えてまちがいはない。食品として禁止されている成分の中には、甲状腺の機能を上げて体温上昇や代謝の過剰な活性化を起こすものもある。甲状腺機能の上昇はバセドー氏病のように、うちわが手放せないほど猛烈に熱くなるし、体もだるくなる。もちろんおすすめしない。
「体積が大きくておなかがふくれるけれど、元々含まれているカロリーが少ないものを食べるダイエット」-これは有効である。物理法則にもかなっている。充分なカロリーを口に入れないのだから、体脂肪は減る。空腹感をどのようにまぎらわすかがカギとなる。かつて話題になったりんごダイエットも、水分や消化されにくい物質でいかにカロリーをうすめるかの加工・調理技術にかかっている。

無意識な摂食を警告するダイエットもある。昨年話題になった、岡田斗司夫氏の「いつまでもデブと思うなよ」(新潮新書)では、丹念に記録を取ることでむだな食物摂取を意識させるという点に重点が置かれている。エネルギーの入り口を閉じるアイデアとして科学的に合理性がある。(ただ、私はやせていないころの著者のかわいい顔のファンであったので、少し残念である。)
こうしてみると、エネルギーの逃げ道がはっきりしたダイエット法は多くない。いったん口に入れたエネルギーは、そのまま糞便中に出ていってくれるものを除けば、熱や運動などの形でしか逃げないことがわかる。あとは口に入れる量を減らすしかない。科学的に納得できるダイエット法とは、エネルギーの逃げ道が明確なものというのが熱量学的ダイエットの結論である。

参考文献

W.P.T.James, E.C.Schoefield, Human energy require-ments, Oxford University Press, Oxford, 1990
G. McNeill、エネルギーの摂取と消費、「ヒューマン・ニュートリション」第10版 (J.S.Garrow, W.P.T.James, A.Ralph編、渡邊令子訳)医歯薬出版,25-37,2004

出典:女子栄養大学出版部「栄養と料理」