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熱力学的ダイエット論 最終回 ー巷のダイエットの真偽ー 【第1弾】

伏木 亨

龍谷大学名誉教授、農学博士

熱力学的ダイエット論 最終回 ー巷のダイエットの真偽ー 【第1弾】

伏木 亨

龍谷大学名誉教授、農学博士

巷にはダイエットに関わる情報がごまんとある。どれもが「やせるやせる」の大合唱であるが、そのわりには効いたという人は周りには少ない。おそらく、ゼンゼン効かないダイエットや、ささやかな効果しかないダイエットが大半を占めるからなのであろう。有効なダイエットを見分ける科学が必要である。

もしもやせた、あるいは体脂肪が減ったならば、相当するエネルギーが体の中からどこかに逃げていったはずである。本シリーズで、体脂肪1gは約7キロカロリーに相当すると述べたことを思い出して欲しい(熱量学的ダイエット論その2―第1弾―)。

エネルギーは消滅しないし新たに生まれもしない。場所や形を変えるだけというのが、熱力学の基本である。あなたの体脂肪から逃げ出したエネルギーは姿を変えて地球上のどこかに存在する。体の中のエネルギーがどのようにして体外に移動するかを明らかにしているダイエット法だけが科学的に信用できる。
「エネルギーは消滅しない。」
「やせた分に相当するエネルギーの逃げ道と形が明らかにされているダイエット法だけが、信用できる」

エネルギーを体から逃がす方法

では、体の中のエネルギーが体外に移動する逃げ道にはどのようなものがあるか、見ていく。

体がぽかぽかして熱が体から逃げていく

最も一般的なエネルギーの逃げ道は熱である。体温が長時間上昇するとか、体のどこかの皮膚の温度が高いとか、汗が出るとか、汗よりも微少な水蒸気で皮膚から逃げるなど、体から発散される温度はエネルギーの逃げてゆく代表的な姿である。
体がぽかぽかするなど、体温が上昇するダイエットは一応根拠があると考えられるが、体温の上昇が強く長く続かない限り、短期間で目に見える体脂肪変化は得られにくい。体温上昇の程度によっては、効果が現われるのに長期間かかることを覚悟する必要がある。

食べたものが吸収されずに糞便中に逃げていく

糖や脂肪の消化を阻害するダイエットと吸収を阻害するダイエットがあるが、どちらにしても消化管の外で押しとどめる効果を狙っている。栄養素の吸収をじゃまする物質のダイエット効果が、これで説明できる。消化管から吸収できなかったエネルギー物質は糞便中に出る。それ以外に出る道はない。
消化吸収されない油脂が開発されているが、ウンチに出てくる。当然、うんとやわらかくなる。ここまでくれば本物である。消化されない糖質があるが、実際は腸内細菌で一部が分解されて吸収されるのでカロリーはゼロではない。
糖質や脂肪などの栄養素の消化・吸収を抑制する作用があっても消化管は長い。一時的に消化・吸収が遅れるだけで最終的には糞便中に出ずに、ほぼ完全に吸収されてしまうこともある。「糖質や脂質が消化吸収されずに体外(糞便中)に排泄される」ことをはっきり示していないものは疑わしい。

尿中に栄養素が出てくることはない。尿が濃縮される過程で再吸収される。糖が出たら糖尿病だからおだやかではない。たんぱく質を食べると窒素分が尿酸になって排泄されることはあるが、これはあらかじめたんぱく質のカロリーから引き算されている。尿からエネルギーが逃げることは無いと考えていい。
これ以外にエネルギーが体から出て行く形はほとんどない。出血や、嘔吐やひどい下痢などで、血液や食塊が逃げてゆく特殊な場合だけが例外である。発汗にはエネルギーが必要だが、汗自身のエネルギー量は微量なので無視できる。鼻水、よだれ、あか、フケの類もゼロカロリーではないが事実上無視できる。

出典:女子栄養大学出版部「栄養と料理」