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HEALTH 2019.06.12 伏木 亨

熱力学的ダイエット論 最終回 ー巷のダイエットの真偽ー 【第2弾】

緊張によってもエネルギーは損失するが・・・

緊張や興奮によって交感神経が刺激されて、アドレナリンやノルアドレナリンが分泌されれば、相当するエネルギーの消費がある。全身の体温上昇であったり、血流の変化であったり、顔が熱くなったり、意識が活発になるなど、さまざまな形でエネルギーが体外に逃げていくと思われる。
どのくらいの効果があるかは数字では出しにくいが、有効ではある。一方、過度の緊張やストレスで下痢や食欲不振、不眠などの体調不良が伴えば、それ相当のエネルギー収支の変化が起こるが、健康的なダイエットとしてはおすすめできない。

代謝回転によるエネルギーロスを操作できればよいが・・・

人間の体を構成する筋肉や酵素やその他のたんぱく質はそれぞれ固有の速度で代謝回転(※)している。(※体を構成するあらゆる物質は、変化がないように見えても、つねにこわされては作られるということをくり返している。これを代謝回転という。)つねに新しいものに入れかわっているのだ。この速度は各人によって微妙に違う。エネルギーが欠乏している人では、代謝回転をできるだけゆっくりにしてロスをなくそうとする。
ダイエットを続けると基礎代謝が落ちるというのはこのことを指す。反対に、新陳代謝が活発という言葉どおり、代謝回転が速い場合にはエネルギーのロスも多くなる。体を常に新しいパーツで動かすために代謝回転は重要である。

代謝回転を速めればいいのではないかとだれもが思うだろう。確かにそうなのだが、人為的に操作することはむずかしい。代謝回転速度は甲状腺ホルモンを中心とする代謝活性の調節系で適切な速度に保たれている。飢餓や外傷などのさいに体の消耗を防ぐには回転を遅くする調節が行われる。過剰に代謝が活性化するとエネルギーが体温上昇などで体外に発散される。代謝回転が低下すると体温も低下傾向になる。
しいていうならば、日常的にスポーツを行なっている人は代謝回転が速い。筋肉などに生じる損傷を補う必用もある。エネルギーを制御している脳は、スポーツを身体が敵と闘う戦闘状態と錯覚するので、危機のときの国防予算のように、多少のエネルギーの浪費には目をつむるのである。

出典:女子栄養大学出版部「栄養と料理」

伏木 亨

ふしき とおる

龍谷大学農学部教授、農学博士、龍谷大学農学研究科長

専門は農芸化学・栄養化学。「味覚と嗜好のサイエンス [京大人気講義シリーズ] 」ほか著書多数。日本香辛料研究会会長、日本料理アカデミー理事。平成24年日本農芸化学会賞受賞。平成25年飯島食品科学賞受賞。平成26年紫綬褒章受章。