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ドイツのソーセージとビールのお話 ー第3弾ー

佐藤 和弘

龍谷大学法学部教授

ドイツのソーセージとビールのお話 ー第3弾ー

佐藤 和弘

龍谷大学法学部教授

ドイツビールのおいしさの秘密

ドイツには「ビール純粋令」というものがある。バイエルン王ヴィルヘルム4世が1516年4月2日にビール醸造に関して発令したものだ。「ビールは大麦の麦芽、ホップ、水だけで造られたもの」と定めた。なんとこの法令はルターの宗教改革の1年前に出されており、500年以上の歴史を持つ。ただし、ヴァイスビア (Weissbier) を醸造する小麦のモルトは例外として認められている。発酵は自然にまかせられたが、パスツール以降は、ビール酵母菌の使用も認められている。このような法令が出されたということは、それまでのビールには、コストがかかる麦芽の量を減らすために、いろいろなものが混ぜられていたということである。麦芽が少なくなるとビール本来の味も薄まってしまう。ドイツビールの品質が保たれているのはまさにビール純粋令のおかげである。

アルトビール

ゲルマン民族が育んだビールの歴史

ローマの歴史家タキトゥスはその著『ゲルマニア』の中で、「彼らゲルマニア人は原始的な蛮族で、戦いを好み、ビールを暴飲しているが、反面女性には優しく接している」と述べている。また、ゲルマンの主婦にとって「パン焼きとビール造りが嫁入りの条件」とも言われており、ゲルマン人の日常生活にビールは欠かせないものであったようだ。当時の彼らの飲みっぷりはというと「彼らは渇き(飲酒)に対してこの節制がない。もしそれ、彼らの欲するだけを給することによって、その酒癖をほしいままにせしめるなら、彼らは武器によるより、はるか容易に、その悪癖によって征服されるであろう(タキトゥス『ゲルマニア』岩波文庫 1979年)とタキトゥスは記しているが、察するにゲルマン人はよほどビールが好きだったようだ。

ドイツでは北上するにつれてビールグラスが小さくなる

毎年9月の後半から10月初旬にかけての16日間、ミュンヘンでは民族最大のビール祭りが開催される。期間中世界から600万人余りの人々が訪れ、およそ600万ℓものビールが消費されるという。会場で出されるグラスはマース(Maß)と呼ばれる1ℓジョッキ。それをぐいぐい3杯、4杯と飲み干していく。まさしくタキトゥスの記述にあるとおりだ。南ドイツで何も言わずにビールを注文すると0.5ℓグラスのものが運ばれてくる。「大」を注文するともちろん1ℓジョッキである。

ミュンヘン オクトーバーフェスト会場

しかし、北に向かいライン河畔の都市ケルンの名物ビール「ケルシュ」を注文すると0.2 ℓの円筒状の上品なグラスが出てくる。デュッセルドルフの「アルトビール」は0.25ℓグラスである。ドイツの北の地域では0.5ℓグラスを見かけることはほとんどない。ビールは表面の泡が消えると酸化が始まり、味が落ちる。おいしいビールを飲むためには泡が消える前に飲み干すことである。ケルシュやアルトビールのビヤホールではグラスが空になると、すぐに次の新しいビールが出てくる。それを飲み干すと、また、注文もしていないのに新しいビールが目の前に置かれている。まるで「わんこビール」だ。同じドイツでも地域によってビールの楽しみ方はずいぶん異なっている。

最後にバイエルンのビヤホールで、みんなで大合唱しながらビールを飲む歌を紹介します。日本のビヤホールでも時々聞くことができますよ。さあ、いっしょに歌いましょう!

Ein(アイン) Prosit(プロージット), ein(アイン) Prosit(プロージット) der(デァ) Gemütlichkeit(ゲミュートリヒカイト), 乾杯、心地よいひとときに乾杯
ein(アイン) Prosit(プロージット), ein(アイン) Prosit(プロージット) der(デァ) Gemütlichkeit(ゲミュートリヒカイト). 乾杯、心地よいひとときに乾杯
Eins(アインス), zwei(ツヴァイ), drei(ドライ), g’suffa(クスッファ)! 1,2,3、さあ飲もう!
Prost(プロ―スト)! 乾杯!

(楽譜 出典:Heimatmelodien Falken-Verlag 1990)