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CULTURE 2019.08.20 永野 惇

ゲノム解析を使って在来馬「対州馬」を守る

日本には在来の馬がいることをご存知でしょうか?在来馬とは、日本各地の風土に合わせて進化してきた日本固有の馬で、主に農業や交通、物流に利用されてきました。現在、日本では道産子(どさんこ)(北海道和種)、木曽馬(きそうま)、野間馬、御崎馬(みさきうま)、対州馬(たいしゅうば)、トカラ馬、宮古馬、与那国馬の8品種が認められています。ほぼすべての品種で個体数が少なく、絶滅の危機に瀕しています。

特に数が少ないのが、長崎県対馬市に生息する対州馬です。私たちは今、最新のゲノム解析から対州馬の遺伝的な状況を明らかにし、保護につなげようと研究を進めています。

穏やかな特性の品種、ぜひ保護を

ゲノムとは、生き物のもつ遺伝情報の総体のことを言います。私たちの研究室では、ゲノム全体を調べる「RAD-seq」という手法を用いて研究を行っています。また新しい手法ですが、この手法を用いると、収量や耐病性といった機能に関わる有用な遺伝子がゲノムのどこにあるのかを調べることができます。

作物などの効率的な品種改良が可能になるほか、保全・進化研究などさまざまな目的で生き物の種類を問わず適用できるのも大きな特徴です。馬のゲノムも調べることができます。

対州馬は、女性や子供の畑仕事の手伝いに利用されていたため穏やかな性格で、山がちな地形に適した短足で小柄な体型、雑草を食べて冬を越せるといった対馬の風土に合わせた特徴をもちます。しかしながら、近年の農業の機械化により役割を失い、急激に数が減っています。また、戦時利用のため外来馬との交配が行われた結果、日本固有の馬であることを疑問視され、十分に保護されていませんでした。

在来馬は将来世代への貴重な財産

研究では、対州馬と他の日本在来馬、混ざったとされる外来馬のアングロアラブのゲノム情報を調べました。これらを比較することで、戦時中の交配により、現在の対州馬のゲノムにどれくらい外来馬のゲノムが混ざっているのかを知るのが目的です。

その結果、ゲノムには交配の影響がほぼ見つからないという結果が得られました。原因は限定できませんが、混ざった個体が対馬の風土に合わずうまく生き残れなかった可能性や、戦後、対馬の人々が本来の対州馬の性質をもつ個体を好み、対州馬らしい個体同士を交配させて残してきたなどの可能性などが考えられます。

一方、遺伝的な多様性は他の日本の在来馬と比べて低いという結果でした。つまり、対州馬において大きな問題は他品種の馬と混ざってしまったことではなく、遺伝的な多様性が低いことであることが明らかになりました。

この結果を受けて、対馬市と対州馬保存会を中心に、対州馬の天然記念物指定に向けた専門部会が設立され、保全に向けた動きが進んでいます。また近年、自治体や日本在来馬の保護、紹介活動が行われています。日本の在来馬は小型で穏やかな性質を持つことなどから、乗馬体験に加え、ホースセラピーに適性があることも言われており、さまざまな可能性があります。品種は一度途絶えてしまうと、現在の技術では復元は不可能です。将来世代への貴重な財産として、日本の在来馬を十分に保護する必要があると考えています。
(写真提供:目保呂ダム馬事公園)

担当者:手塚 あゆみ、永野 惇


出典:2018年11月14日(水) 京都新聞

永野 惇

ながの あつし

龍谷大学農学部准教授、博士(理学)

2009年京都大学理学研究科修了。農業生物資源研究所 特別研究員、日本学術振興会 特別研究員(PD)、科学技術振興機構 さきがけ研究者を経て、2015年より現職。著書:「Photobook 植物細胞の知られざる世界」「広辞苑を3倍楽しむ その2((岩波科学ライブラリー)」など。2014年科学技術分野の文部科学大臣表彰 若手科学者賞 受賞。専門は、植物分子生物学、情報生物学。