記事トップ

TRIVIA 2019.10.01 塩尻 かおり

植物のおしゃべり

もの静かな植物が"おしゃべり"?と思われるかもしれません。でも、植物たちは静かに、でも饒舌におしゃべりをしています。ただこのおしゃべりは、声(音)ではなく香りで行われるため、私達の耳ではきくことができません。今回は、香りで行われる植物たちのおしゃべりを聞いてみましょう。

普段はあまり香りがしないような植物でも、草刈りをしたり、料理で野菜をちぎると、その植物独特の香りがします。これは植物が傷ついた時に出す特別な香りなのですが、同じ植物でも、何によって傷をつけられたかでその香りは異なります。

香りで危険を伝え合う

例えば、虫に食べられた時と包丁で切られた時の香りは違うのです。さらに驚いたことに、その香りの違いを植物自身が感じ取ることができて、近くの植物が虫に食べられた時には自分自身の身にも危険が迫っていると察知し、虫に対する防衛体制を事前にとることができるのです。

まさに植物同士が香りを使って危険を知らせ合っている、おしゃべりです。このような香りを通した植物と植物の相互作用は、匂いを介した植物間コミュニケーションとして、既に40種以上の植物で知られています。

一般に、植物の言葉(香り)は植物の種類ごとに大きく異なります。しかし、スペイン語とイタリア語で同じような単語が使われ、日本人が中国語のメニューを見てどんな料理か何となく分かるように、異なる種類の植物の間でもおしゃべりが成り立つことがあります。

例えばトマトは、セージブラシという植物が虫に食べられた時に出す香りをきっかけに、虫に対する防衛を始めます。このように植物種を超えた一見大ざっぱに思えるコミュニケーションが成り立つ一方、同じ植物種であっても、方言のようなものが存在することも分かっています。まるで同じ方言を話す同郷人同士で細かいニュアンスが分かりあえるように、100キロほど離れた場所に生えている植物の香りよりも、近くに生えている植物の香りに対して強い反応を引き起こします。

さらに、植物の血縁関係が近いと香りもよく似ていて、血縁同士のコミュニケーションの方が他人同士のコミュニケーションよりも強いことが分かってきました。まるで、家族にだけ通じる家族用語をもっているようにも思えます。なぜこのような血縁同士のコミュニケーションが強く起こるのか、その理由はまだ分かっていません。みなさんは、どう考えられますか?

収穫量アップの組み合わせも

私達の研究室では、植物の香りのおしゃべりを農業に利用できないかと考え、いくつかの植物を使って、香り成分や害虫に食べられた被害度、収穫量を調べてきました。その結果、雑草のセイタカアワダチソウやミントの香りを黒大豆に嗅がせると、害虫に食べられにくくなり、収穫量も多くなりました。さらに、重要栄養成分のサポニンやイソフラボンの含有量が多くなることも明らかになりました。これからは、どんな植物の組合せにすれば、どんな良い結果が得られるのかをいろんな視点から調べ、新たな農業技術として使えるようにしたいと考えています。

出典:2019年1月9日(水) 京都新聞

塩尻 かおり

しおじり かおり

龍谷大学農学部准教授、博士(農学)

2001年京都大学大学院農学研究科修了。日本学術振興会海外特別研究員(PD)、日本学術振興会特別研究員(PD)、京都大学白眉センター助教を経て、2015年より現職。2003年日本応用動物昆虫学会奨励賞、2005年日本農学進歩賞、2013年日本生態学会宮地賞受賞。分担著書:「生物多様性科学のすすめ」(丸善東京)。専門は植物・昆虫生態学。