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TRIVIA 2020.09.11 樋口 博也

微生物と共生するカメムシ

地球上には、細菌や糸状菌など微生物があらゆるところに存在しています。これらの微生物は、昆虫と共生関係で密接に結ばれているものも多くいます。

たとえば、シロアリですが、彼らは他の昆虫が餌として利用できない植物の遺体、すなわち木材を栄養源として利用することにより、食物をめぐる獲得競争を回避し、いわば「独り占め」をしています。シロアリは、木材の主成分であるセルロースを分解するのに、腸内に共生している微生物の助けを必要としています。この微生物は、酵素セルラーゼを分泌し木材の主成分であるセルロースを分解します。シロアリは、セルロースの分解物を吸収しエネルギー源として利用しています。

昆虫の共生微生物は、昆虫の体表に付着しているもの、体内に入り込んでいるものなどいろいろですが、カメムシ類にも、生存のために重要な働きをする微生物が、消化管のなかで共生していることが明らかにされています。

斑点米被害を引き起こすカメムシ類

ホソハリカメムシは、イネが出穂すると水田に侵入し、穂を吸汁加害することで斑点米を発生させます。斑点米とは、イネの穂のなかの胚乳部分が、カメムシに吸汁され、表面に黒色あるいは茶色の食害痕ができた玄米のことです。玄米中にこの斑点米が混入することによって米の等級が下がるため、農家にとって斑点米被害を引き起こすカメムシ類は、防除すべき対象となります。また、効果的な防除技術を組み立てるためには、その生態を明らかにすることも重要です。

斑点米

ホソハリカメムシの共生細菌

野外から採集したホソハリカメムシの成虫を調べたところ、消化管内にBurkholderia共生細菌を保持していました。ところが、飼育室内で幼虫期から餌と水だけを与え飼育し羽化した成虫は共生細菌を保持していませんでした。室内飼育でも幼虫期に餌と水以外に畑の土を与えると、羽化した成虫は共生細菌を保持していました。したがって、ホソハリカメムシは、野外では幼虫期に共生細菌を土から経口的に獲得していることが明らかになりました。この共生細菌は、「環境獲得型共生」と呼ばれ、宿主であるホソヘリカメムシにとって共生細菌を保持することは生存に必須ではありませんが、栄養代謝に寄与していると考えられます。

共生細菌の働き

共生細菌を保持したホソハリカメムシの幼虫は、保持していない幼虫と比べ幼虫期間が短くなりました。また、幼虫期に共生細菌を獲得し羽化した成虫は、体サイズが有意に大きくなり、産卵数も多くなることが報告されています。これらのことは、共生細菌がホソハリカメムシの成長や繁殖に大きな役割を果たしていることを示しています。

滋賀県で斑点米被害を引き起こすカメムシ類は、ホソハリカメムシ以外に、クモヘリカメムシ、アカスジカスミカメ、アカヒゲホソミドリカスミカメなどがあり、また、イネカメムシが増加傾向にあることも報告されています。

私の応用昆虫学研究室では、斑点米被害を引き起こすカメムシ類について、基礎的特性、野外での発生生態、天敵の働きなどを明らかにし、その防除技術の構築につなげていきたいと考えています。

ホソハリカメムシ成虫

樋口 博也

ひぐち ひろや

龍谷大学農学部資源生物科学科教授

(独)農・食研究機構九州沖縄農業研究センター生産環境研究領域長を経て、2015年より現職。農学博士。専門は、昆虫生態学、害虫管理学。著書に、「カメムシによる斑点米をふせぐ‐カスミカメムシ類の生態と管理‐」、「転作全書 第二巻 ダイズ・アズキ」など。