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酒と料理のマリアージュ、日欧の違いは結婚観の違い?

伏木 亨

龍谷大学名誉教授、農学博士

酒と料理のマリアージュ、日欧の違いは結婚観の違い?

伏木 亨

龍谷大学名誉教授、農学博士

 ワインの世界では古くから料理と酒のマリアージュが重視されてきた。
フランス人の言うマリアージュとは、料理とワインが協調しあって単独では実現できなかった高い次元の味わいを作り出すことといえる。実際に料理に合わせてワインを選ぶのはソムリエの重要な役目であり、料理と酒の特徴を熟知することが要求される。

 最近、日本酒と料理にもマリアージュが求められるようになってきた。
しかしワインの場合のような顕著な組みあわせは容易ではない。
かつては、日本酒には、燗酒と冷や酒の二種類しかない店が多かった。日本酒はどのような肴にもマッチする懐の広い酒だからというのが大方の感覚であった。

 フランス料理では、ワインの合わせ方によって料理の味わいが大きく左右される。
ワイン選びは難しい。しかし、日本酒と料理の合わせ方はワインとは違うように思う。
料理に合った日本酒は料理のインパクトを上品に消してくれる。
それで、また料理がおいしく食べられる。酒がでしゃばりすぎず、また控えめ過ぎないというのが、強いて言えば日本酒のマリアージュだったのである。

 この日欧の違いは、おそらくマリアージュ観すなわち結婚観あるいは夫婦間の男女の位置にも起因するように思われる。男女が互いに認め合ってさらに高いものを作り出すのはフランスの文化かもしれない。
一方、日本の古典的な夫婦関係というのは、女性が男性の一歩後に従い、陰で支えながら調和を計るのが望ましいとされていたように思われる。
日本酒はそのような古い時代に育まれた酒のようだ。
 料理と酒は対等であり、その相互作用が重視されるフランスと、酒は料理の味を邪魔することなく穏やかに沈静化させるのが日本という2つの違いが、それぞれの夫婦の関係に似ていることは興味深い。
 日本でも、近年は男女の関係が欧米に似た新しい時代に入りつつある。料理と日本酒の立ち位置にも変化が現れる時代がやってきそうである。

出典「互助組合報」(2014.11.10号)