最近、どこでもよく見かけるペットボトルに入った炭酸水。ちょっと昔は、糖分が入っていない純粋な「炭酸水」は、海外から輸入されているもの以外あまり見かけなかったような気がします。そんな時代を過ごしてきた私のような世代の人は、「炭酸水」と言えば「サイダー」や「コーラ」など、ガッツリ甘い飲み物をイメージすることの方が多いかもしれませんが、昨今は、健康や美容のための炭酸水(糖分なし)、のようなイメージを持つ人が増えてきているようです。
さてこのように、人や世代によって「炭酸水」のイメージは異なると思いますが、もっと昔、今から100年ぐらい前は、日本でボトリングされて販売されていた、いわゆる「ミネラルウォーター」は、炭酸水であったということを知っている人は意外と少ないかもしれません。もしかすると、その頃の人たちにとっては「ミネラルウォーター」=「炭酸水」というイメージだったかもしれませんが、残念ながらその時代を生きた知り合いがいませんので、真偽のほどは定かではありません。
閑話休題。その頃のボトリングされて販売されていた炭酸水は、人工的に造り出されたものではなく、天然に湧き出す炭酸水をボトリングしたものでした。その中でも有名なのは、今でも形を変えて販売されている「三ツ矢サイダー」です。「兵庫県多田村平野」という場所で湧き出していた炭酸を多く含む鉱泉を「平野水」として瓶詰めして販売したのが発祥で、その後、それにフレーバーや糖分を加えて販売されたのが、現在の三ツ矢サイダーのルーツとなる「平野シャンペンサイダー」ということだそうです。
明治時代には、「平野水」以外でも、いくつかの場所で天然炭酸水がボトリングされて清涼飲料水として販売されていました。「天然に湧き出す炭酸水」といっても多くの人はイメージしにくいかもしれませんが、いわゆる「湧き水」の一種で、炭酸を多く含んでいて、もちろん、飲むとシュワシュワします。しかも、地下から湧き出した地下水ですので、夏の暑い時期でもその温度は15℃前後であることが多く、大変のどごし爽やかです。日本全国を見ると今でも、このような天然の炭酸水がいろんな場所で湧き出しています。最近はその様な炭酸系のご当地ミネラルウォーターもスーパーなどで販売されているので、もし見つけたら、自然の息吹を感じながら味わってみても面白いのではないでしょうか。
一方、「天然の炭酸水」には温度が高いものもあり、その様なものは昔から温泉として利用されています(冷たい炭酸水を加温して温泉として利用することもよくあります)。
温泉の場合は、「炭酸水」ではなく「炭酸泉」と呼び方が変わりますが中身は同じものです。古くは、日本書紀に「醴泉(こさけのいずみ)」という記述があり、これは炭酸水を表したものではないかと言われていて、かなり昔から、日本人が炭酸水を利用してきたと考えられています。炭酸水のイメージは世代によって違うかもしれませんが、時代を問わず、炭酸水を体の中から外まで楽しめる水として重宝してきたことがうかがえます。
参考資料:中村昭:本邦における炭酸泉の歴史的概観(1), 人工炭酸泉研究会雑誌, 2(1), 10-15, 1999