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うま味の「相乗効果」 -第3弾-

伏木 亨

龍谷大学名誉教授、農学博士

うま味の「相乗効果」 -第3弾-

伏木 亨

龍谷大学名誉教授、農学博士

一般に、なぜ相乗効果は7、8倍と言われているのか

もっと高い濃度で相乗効果を調べたい。そこで、閾値に代えて、濃度がわかっているうま味液を幾つか作り、それと比較して同じうま味の強さをもつ溶液の濃度でうま味の強さを数値化することが行われた。
グルタミン酸ナトリウムを濃いものから非常に薄いものまで異なった濃度に溶かす。これらが濃度のわかっている標準液になる。これと飲み比べて等しい強さのうま味を探ることができる。これは比較的容易である。

相乗効果の倍率を知るために、グルタミン酸ナトリウムとイノシン酸ナトリウムの合計濃度を0.05%と比較的に低いところで常に一定にして、配合比率を変えた。うま味の強さの変化は、先ほどのグルタミン酸ナトリウムの標準液と比較してグルタミン酸ナトリウム相当量濃度で表した。
結果は、両者がほぼ等しい濃度領域でうま味は最高になった。片方がゼロに近づくと、うま味は弱くなる。
片方だけでまあ、うま味がなんとか感じられる強さを1とすると、混合液ではそれが最高で7、8倍に達する(Yamaguti et al. 1967)そこから呈味の相乗効果はだいたい7、8倍くらいという数字が出てきた。配合割合をもっと偏らせたうま味強度の弱いところを基準にすると、相乗効果の倍率はもっと大きくなる(図1)。したがって、数字はあまりきっちりしたものではない。

相乗効果が目で見えた

うま味の相乗効果が1950年代に国中によって発見されたものの、そのメカニズムはよくわからなかった。長い間想像の域を超えない状態にあったのである。2000年前後にうま味受容体が次々と発見され、うま味受容体はアミノ酸にも核酸にも応答した。両者は同じ受容体を介しているらしいことが強く推定された。
最近の研究では、うま味受容体がうま味と結合した時の構造変化を可視化することができるようになった。直接見るのではなく、エックス線を当てて散乱する光をたよりに受容体たんぱく質の形を数学的に解析する方法である。
この方法で、グルタミン酸とイノシン酸は1つのセンサーの異なる部位に結合することが確認された。イノシン酸が結合するとセンサーの構造が変わる、するとグルタミン酸を離しにくい形になり、グルタミン酸はいつまでもくっつく。
いつまでもセンサーにくっついて離れにくいので、うま味が強く感じられるのである。これが相乗効果の実態であると言える。

参考文献
The synergistic taste effect of monosodium glutamate and
disodiumu5’-inosinate. Yamaguchi S. J. Food Sci. 32, 473 (1967)
グルタミン酸ナトリウムと5‘グアニル酸ナトリウムの呈味の相乗効果

出典:(一社)日本ソムリエ協会「Sommelier.jp」