Bmal1の発見は日本大学薬学部の榛葉博士の業績である。しかもBmal1レベルが高いときには体脂肪の合成が盛んになることが示された。Bmal1が遺伝子の転写因子として脂肪の合成を高める遺伝子群を活性化することが科学的に証明されたのである。マウスの実験では、Bmal1は夜中に濃度が高く午後から夕方にかけて低い。これは確かな事実である。つまり、夜中には体脂肪の合成が活発のように見える。
これを聞いた人々は「夜中に食事をしたら脂肪の合成が高まり、太りやすいという事実が説明できた」と納得したに違いない。
しかし、考えてみてほしい。マウスは夜行性である。餌は夜や明け方に食べる。夜間の動物飼育室は、金網のケージががたがた鳴るほど、マウスが活発に運動する。昼間は寝ている。マウスと人間では食事時間も活動時間も昼夜逆なのだ。だからマウスが夜に太るならば人間では逆になる可能性もある。
Bmal1は夜中に食べた不要な餌を脂肪に変えようとしているのではなくて、食習慣どおりに食べた餌を効率よく脂肪に変えて、飢餓に備えて蓄えようとしているのではないだろうか。
また、ラットの実験では摂取した糖質がBmal1の活性をコントロールしているという報告もある。Bmal1が出るから太るのではなくて、食べたからBmal1が出たのかもしれない。
いずれにしても、昼に活動する人間ではBmal1の動きがどうなのかがわからないと夜中の食事は太るという根拠にはならない。だから現時点ではかならずしも結論は出ていないといわざるをえない。
もう一度、夜に食べるという行為を検証してみたい。重要なのは、“夜中に食べる食事は一日の正規の食事に加えて余計な食事であることが多い”ことだ。
寝る前に甘いものを少し食べてみたいとか、湯上がりのビールとか、夜更かししておなかがすいたとか、夕食が早かったので寝る前におなかがすいてしまったとか、飲み会のあとのラーメンとか、これらは明らかに余分なカロリー摂取である。当然太る原因となる。昼間はそんな余裕があまりない人が多い。
さらに、夜に食べた糖分や水分は水やグリコーゲンになって寝起きの顔などにつきやすい。日中は足にたまっていた水分が寝ている間に全身にまわり、顔がむくむ。脂肪ではないのに太ったと錯覚させる場面が朝に多いので、前の晩の過食が実態以上に犯人扱いされやすいのかもしれない。
「夜中に食べると太るというのは、正しいかどうかわからない。しかし、
昼でも夜中でも、余分な食事は太る原因である。」
これが今回の法則である。
出典:女子栄養大学出版部「栄養と料理」