最も大きな食事である夕食に食べる量を控えるのが有効であることはわかっている。しかし、むずかしい。日本の習慣では、夕食をおちついて豪華に食べる家庭が多い。1日の疲れを癒す大事な習慣であり、おろそかにはできない。
先にも述べたように、動物の代謝は活動期と安静期に区別されており、活動期には逃避や闘争に備えた交感神経優位の緊張状態が続き、安静期には逆に安全な巣の中で明日に備えて栄養を摂取し筋肉を修復しエネルギーを体に蓄積する。夜の食事も安静期の様なリラックスした状態でとってこそ明日の活力につながる。夜の食事は栄養の補給以外に楽しみの部分も大きい。これを削るのは心理的にもむずかしい。
むしろ、戦闘時にあたる昼食ならば、うまいものを食べずともがまんはしやすい。昼間に仕事をしている人ならば、昼は忙しい。昼には楽しみの部分をがまんして必要な栄養素を確実に摂取することにとどめるのは戦略的に賢明である。昼を軽くすることは比較的容易なのではないかと思う。昼食をさらに小さく2回に分けて、夜までをしのぐことも習慣になればむずかしくはない。500kcal食べるところを300kcalくらいにおさえられれば、これまでに本シリーズで計算したように目立って体重は減る。
朝食を軽くするのは昼を抜くのと理論的には大きな違いはないように思われる。自律神経系の活動が低下しているので、カロリーの高い食事を朝に摂取することはそもそも困難である。夜の間に消耗したグリコーゲンを補給するために朝におかゆなどの吸収しやすいでんぷんをとることは悪くない。朝食は活動のリズムを作るという意味もあり、まさに時計遺伝子への同調の役目を持っている。一日の活動期に向かってまったく食べないことは好ましくない。
多くの研究者は、朝食抜きによる自律神経のバランスの乱れや午前中の能率低下を示唆している。私は朝食抜きの影響を研究したことはないので確かなことはいえないが、多くの人たちが朝食抜きに警鐘を鳴らしていることは傾聴に値すると考えている。ダイエットのターゲットはやはり間食と昼食のように思う。
次回は最終回、科学的に正しいダイエットの判定法に迫る。
参考文献
Brain and muscle Arnt-like protein-1 (BMAL1), a component of the molecular clock, regulates adipogenesis. Shimba S, Ishii N, Ohta Y, Ohno T, Watabe Y, Hayashi M, Wada T, Aoyagi T, Tezuka M. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, (2005) 102, 12071-12076
出典:女子栄養大学出版部「栄養と料理」