京都の夏は暑い。つい冷たい飲み物に手が伸びてしまい食欲がなくなる。典型的な夏バテである。古くから、夏バテ予防にはウナギが効く、と考えられてきた。どうしてウナギが効くのか。ビタミンやミネラルが豊富であるがそれだけではない。ウナギは匂いだけで白米が食べられるほど、強い食欲増進作用を持つ。しっかり食事を取ることこそ体調回復への第一歩である。

激しい運動に炭水化物

さて海の向こうでは、暑い夏をものともせずに連日およそ150キロを自転車で走っている人達がいる。ツール・ド・フランスである。アルプスやピレネー山脈を越えて3週間で3300キロを走り、パリのシャンゼリゼ通りにゴールする。人間の限界に挑むスポーツイベントと言える。

選手たちはどのくらい食べるとよいのか。二重標識水法という最も信頼できる技術を使って1日のエネルギー消費量を測定する研究が行われた。平均して6000キロカロリー、多い日には9000キロカロリー。一般成人が1日に食べる量の食事を朝、昼、晩と食べても足りるかどうか。よほど強靭な胃袋がないと体がもたない。

何を食べるのか。スポーツの最中の補給といえば、ジェルやスポーツドリンクが思い浮かぶかもしれない。しかし水分を取りすぎると胃腸が弱るのは選手も同じである。ジェルも摂取するとはいえ、レース中でも、意外なほどパンやコメなどの固形物を摂取している。1時間ごとに約300キロカロリー。ほとんど炭水化物ばかりを食べ続ける。

炭水化物はほぼ糖質であり、激しい運動のエネルギー源になる。つまり運動が激しいほど、炭水化物の必要性が増す。実際、オーストラリアのグループの研究によれば、エリート選手たちの合宿の時に、選手たちの食事をコントロールして、低糖質食グループと高糖質食グループで分けて過ごさせた。3週間後にレース記録が向上したのは高糖質食グループだった。

自分の体を知りパフォーマンス向上

ただし万病に効く薬はないように、万病に効く食事はない。食事が競技能力に大きな効果を発揮するのは、選手の体内で、特定の栄養素の必要量が上がっていたり、特定の栄養素が不足したりしている時である。

だからこそ、自分の体の状況を適切に把握し、正しい知識に基づく食事を取ることで、パフォーマンスを上げたり、疲労回復することができる。

来客を学内で案内すると、ヒト代謝実験室(写真)で「農学部なのにこんな施設があるとは思いませんでした」と驚かれる。選手の筋肉量や体脂肪率、骨密度や貧血チェック、有酸素・無酸素の運動能力などの代謝測定を行うことができる。

ヒト代謝実験室(大津市・龍谷大学農学部)

研究室を訪問した選手にセンサーを取り付け、競技中の栄養補給が適切であるのかモニターし、アドバイスを送る。アドバイスがツボにはまって選手が良い結果を出してくれると、本当に楽しい。

大学では、日々、事例を蓄積して選手のケースに応じて適切な対応ができるように研究を重ねている。同時に、管理栄養士を目指す学生を通じて、選手に栄養についての情報提供を行い、選手自身で適切な判断ができるように教育を行っている。

まだまだ暑い日が続く。絶滅危惧種のウナギに頼り過ぎることなく、しっかり食べて、暑い京都の夏を乗り切っていただきたい。

出典:2018年7月11日(水) 京都新聞