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CULTURE 2021.03.23 Mog-lab取材スタッフ

「日本料理:アジェンダ2021」龍谷大学×日本料理アカデミー研究成果報告会

京都・老舗料亭の料理人が中心となり活動するNPO法人日本料理アカデミー。受け継がれてきた歴史と伝統ある日本料理を、科学的な視点で分析し理解を深めるために、龍谷大学の研究者と日々研究活動をおこなっています。毎年シンポジウムを開催し研究成果を広く社会に発信していますが、今回は新型コロナウイルス感染予防の観点から、無観客での開催となりました。20211月に開催された今回のテーマは「日本料理:アジェンダ2021」。日本料理の持続可能性について焦点を当てています。

なお、本シンポジウムはオンデマンド動画配信をしております。
ご視聴の方法については記事の最後をご覧ください。

 

「日本料理の持続可能性」に焦点を当てた理由

近年、あらゆる分野で耳にする「持続可能性(サステナビリティ)」。2015年の国連サミットで「SDGs(持続的可能な開発目標)」が採択され、持続可能な社会を目指して世界中でさまざまな取り組みが行われています。
料理の分野においても未来のことを考え、余りにも贅沢な食材や絶滅が危惧される食材を使うことを見直そうといった流れがある中、これまで日本料理についてさまざまに議論を深めてきた本研究会でも未来に向けてどうすれば日本料理を持続できるのか、今一度考え直そうと「日本料理:アジェンダ2021」と銘打ち、日本料理の持続可能性に焦点を当てるととなりました。

身近な食材を伝統技術で高級料理に

第1部は「研究者VS料理人」。研究者と料理人2組によるディスカッションです。
まずは、研究者として味の素株式会社の川崎寛也氏、料理人として日本料理アカデミーの理事長を務める菊乃井の村田吉弘氏が登壇。テーマは江戸時代初期から京都で作られてきたという大根を使った料理「尾州巻」です。

まず初めに、村田氏から「もともと京料理は持続可能な料理。『良い料理』というのは豪華な素材を羅列したものではなく、どちらかというと質素なものを、心豊かに味わってもらえるように心がけた料理です」と語り、家庭の食卓から高級料亭の一品まで、日本人の食生活にとってポピュラーな大根を料亭でも出せるような一品に仕立て「ありふれた食材でも、伝統的な技術により特別感のある美味しい料理を作ることができる。それが昔から伝えられてきた京料理の技、考え方です」とまとめました。

それを受けて川崎氏は、海外の事例を提示。仏教哲学の「命を頂戴する」、「吾唯知足(われ、ただたるをしる)」といった教えに基づく日本料理の思想が、北欧やフランスにも影響を与えているという話題に。ガストロノミーで世界を引っ張ってきたフランス料理の世界で料理人が表現してきたことが、100~50年前までは「歴史・食文化」、そこから20年前くらいまでの間は「食材」、10~5年前くらいで「自然」に着目され、ここ数年でサステナビリティに向かっているという流れを挙げ、「そもそも日本料理というのは、サステナビリティが頂点にあり、この3つをすでに400年ぐらい表現してきているのでは」と考察。
「新しい料理を考えるのも良いが古典から学び、もう一度先人がやってきたことを見直すべき」「この時代だからこそ、贅沢な食材を使うのではなく技術によって食材の価値を高めた料理で感動を与え、サステナビリティを意識させる、持続可能性に対する新しいメッセージを伝えられるというところに高級料理店の存在意義があるのではないか」「料理を通してコミュニケーションをとり感動を与えるためには、食べる側の教養も必要。双方が勉強していかなければならない」などの意見が交わされました。

洋色の素材を日本料理で使える和色に変換

「研究者VS料理人」のディスカッション2組目は、研究者として龍谷大学の山崎英恵教授、料理人として木乃婦の髙橋拓児氏が登壇。テーマは「洋色から和色へ」です。
初めに「僕たちが日本料理を作る上で、日本の色、和の色をとても大切にしています」と、髙橋氏。日本料理では自然の色合いと調和する色を使う傾向があり、洋色の一覧を参照しながら「使える色もありますが、例えば紫の中でもマゼンダなどの色は日本料理になじみません」と解説しました。今回は、ビーツの鮮やかな色が全面に出る「ボルシチ」を試作。日本料理で使いにくいとされるビーツの色味を「島にんじん(黄)」と「金時にんじん(赤)」を加えることで補正し、味や香りではなく色により日本料理で取り入れにくい食材に対して、見せ方をアレンジメントするテクニックを提案しました。

そこから、まずは教養として“日本の色”というものを知っていなければいけないという話題に。山崎教授は、日本料理の要素をハードウェアとソフトウェアに当てはめると、ハードウェアは食材や調理器具、ソフトウェアは料理人であるとして、「持続可能性ということを考える時、ハードウェアにばかり目がいってしまう傾向にあるが、ソフトウェアもベースを持ちながらアップデートされていかなければならないと感じた」と述べました。ソフトウェア(=料理人)として鍛錬し、味や香り、色といった五感の要素において日本料理がもつフレームを理解・修得すること、センスを磨くことが、日本料理の持続可能性にとって必要であると考察。その中でも色に関しては、今回RGBで数値化することにより、感覚的ではなく理論的な説明が可能になったことに着目しました。

廃棄される食材に可能性を見出す

下口英樹氏(平等院表参道 竹林)「超微細粉末おから」

第2部は、料理人7人による研究成果発表です。下口氏は、京都の代表的な食材である豆腐・湯葉に着目。全国で豆腐の年間消費量が約10万丁ある中で、製造過程で豆乳を搾った際の搾りかすとしてできる「おから」は、年間で約65トン。そのうち2/3は飼料や肥料、残り1/3の80%は廃棄されていますが、パサパサとした食感を変えることで美味しく食べられるのではと考えました。おからを粉末状にした商品はすでにありますが、地元宇治で親しまれる抹茶の技術に着想を得て、さらに細かい300メッシュの超微細粉末に。豆乳を使ったわらび餅に超微細粉末おからをかけた「卯の花豆乳わらびもち」を作りました。

第3部の試食・講評では、この粉の活用法として多彩な提案が上がり、さらにおから以外の食材も超微細粉末にすることでさまざま可能性が出てくるのではと意見が交わされました。

手に入りやすい食材でウナギを再現

竹中徹男氏(京料理 清和荘)「非絶滅危惧蒲焼」

竹中氏は、絶滅危惧種であるウナギの味わいを他の食材で表現できないかと考えました。近年ナマズを代用した商品が話題になったこともありましたが、食べた人の意見として「あっさりしていた」という声も。そこでウナギほどではありませんが、ナマズに比べると脂質が多い養殖真鯛と、川魚の香りを出すためにモロコを使用。どちらも安価で安定して手に入る食材です。養殖真鯛とモロコのすり身に、養殖真鯛のアラから取った脂も加え、江戸焼きのようなふわっとした食感になるようムース状に泡立てたゼラチンと合わせます。それを養殖真鯛の皮を使い成形して焼き上げ、タレを塗り香ばしく仕上げました。

身の脂や皮の食感が温度により変わってしまうため、第3部の試食・講評では、食感にまだ鯛らしさがあるという声もありましたが、香りはウナギを再現できていると好評でした。

手間をかけて食材に付加価値を付ける

才木充氏(京料理 直心房さいき)「手間はうまい」

「日本料理の調理技法の中に持続可能性のヒントがあるのではないか」と考えた才木氏。「贅沢ではない食材に付加価値を付ける」という価値観のもと持続可能性について考察しました。

需要供給、地域や時代により食材の価値が変わること、一つの食材にさまざまな角度から手間をかければ美味しく感じさせることができるということを挙げながら、メインの食材として玄米を選択。香ばしく炒った玄米、より旨みが出るように干したエノキタケ、口当たりが滑らかになるように細かいおろし金でゆっくりとすりおろした聖護院蕪、炒った大豆から取った出汁を使う胡麻豆腐など、「うま味」「香り」「調味料」という3点において全ての食材が調和するよう、一つひとつに手間をかけて仕立て、玄米を美味しく食べるための一品「蕪と胡麻豆腐の玄米粥」を作りました。

新たな価値観で伝統料理の価値を高める

宗川祐志氏(大和学園 京都調理師専門学校)「錦卵ver.令和」

「日本料理にはたくさんの伝統料理があり、時代によって価値観が変わってきた」と、宗川氏。現代の新しい価値観のもと伝統料理の調理法や調味料を変化させることで価値を高めることができるのではないか、それが料理文化のサステナビリティに通じるのではないかと考えました。

テーマに選んだ伝統料理は、関東地方などで正月のおせち料理や祝い膳の一品として親しまれている「錦卵」。卵・砂糖を贅沢に使用、ゆで卵を裏漉しして蒸すことで口の中で解けるほろほろとした食感が特徴です。宗川氏は従来の製法に「泡立てることで卵の使用量を2/3削減して日本酒の香りを付与」「砂糖と味醂の併用で穏やかな甘味へ」「卵を泡立てる事で口どけの良い軽い食感へ」という変化を加え、さらに卵を泡立てる際、白の層はイタリアンメレンゲ、黄色の層はパータ・ボンブという洋菓子の技法を取り入れ、令和バージョンの錦卵を作りました。

すっぽんの魅力や養殖技術を世界に

栗栖正博氏(たん熊北店)「丸」

栗栖氏のテーマは「丸=すっぽん」。中国では約2000年前から、京都でも約400年前から食されており、美味しい出汁が取れること、滋養強壮や美容にも良いといわれ、現在も代々続く専門店があるほど人気の食材です。食材に関しては天然ものが良いとされる日本料理の中で、すっぽんは餌の管理や食べ頃の見極めといった養殖技術の改良により、養殖ものが評価され現在では99%が養殖。味わい、価格、供給とあらゆる面で安定しています。栗栖氏は、亀を食べる習慣がない海外の方にも喜んで食べてもらえる料理に仕立て魅力を伝えることで、養殖・調理技術も世界に広まり、持続できる食材として後世に残っていくのではと考え、すっぽんを使った茶碗蒸しを作りました。

第3部の試食・講評では、今回使われた養殖すっぽんの旨みの強さ、臭みのなさが好評。そこから日本の魚介類の養殖業についても意見が交わされました。

捨てていた食材を美味しく生かす

佐竹洋治氏(京懐石 美濃吉本店 竹茂楼)「ハイキゼロ」

ご飯やパンのお供に鯛の煮つけやアンチョビをお取り寄せする中で「もっと安価な食材でもっと美味しいものが作れないか」と考えた佐竹氏。「食材ロスをゼロにする」という視点もあり着目したのが「魚の頭・骨・ヘタ」「野菜の皮・ヘタ・萎れた葉」など、料理店では捨てたり、まかないに使ったりしている部分。原価計算で除くような食材を最大限に活用して材料費ゼロで何かできないかと考え、「食べる油・和食版」を作りました。

今回使ったのは、鯛の頭・アラ・骨、野菜の皮・ヘタ・萎れた葉など。低温調理でそれらの風味を移した油、旨みを加えるために炊いた昆布、鰹節、くるみなどを加えた一品は、3部の試食の際に「和洋どちらにも合う」などと好評。「瓶に詰めて売れないか」という意見が出たところ、佐竹氏は「考えたんですが売れないだろうなと(笑)。ただ、材料費が安く作り方も簡単なので、こういうものが瓶詰めで世界に出回れば貧困を防げないかということも考えた」と述べました。

一滴の油がもたらす効果

中村元計氏(一子相伝なかむら)「油一滴」

「京料理はもともと食材が豊富ではない京都で、限られた食材をうまく利用してきた、サステナビリティを持った料理文化だと思います」と、中村氏。その中でも油に着目し、日本料理の「わずかな油でおいしさを高める調理技術」について発表しました。

調査のために作った料理は「切り干し大根」。全く同じ条件で油揚げを添加したものと無添加のもの、2種類の切り干し大根を作り、官能試験 (VAS)と具体的な味わい評価のアンケートを行うと、どちらも油揚げを添加したものが優位な数値となりました。さらに「加熱した油を添加」「非加熱の油を添加」「油無添加」の3種類での調査も行い「加熱した油がおいしい」「油の添加により切り干し大根の苦みや味のクセといった好ましくない味わいが緩和される」という結果に。それらを踏まえ「ごくわずかの油をうまく利用し、おいしさを高めてきた日本料理の伝統的調理技法は、これからの食の将来においていろいろな可能性を有している」とまとめました。

今後も料理人自らが学び研究できる機会を

第3部は試食・講評。登壇者全員で料理を味わいながら、それぞれの研究内容や試作した料理についての意見・感想、またそこから派生したアイデアなどが飛び交いました。
閉会挨拶では、日本料理アカデミー理事長の菊乃井・村田氏が登壇。日本料理アカデミーの料理人の中から3名が博士号を授与されることにも触れ「これは世界に誇れることだと思います。料理人がこのような勉強をすること、自分たちで研究するということを今後も続けていきたい」と結びました。
龍谷大学と日本料理アカデミーによるシンポジウムは今後も開催される予定です。料理や食文化に興味のある方は、これからの活動もぜひチェックしてください。

 

【NPO法人日本料理アカデミー シンポジウム「日本料理:アジェンダ2021」の動画配信について】
今回のシンポジウムは、オンデマンド動画配信を行っております。
ご興味をお持ちいただきました方は、以下ご確認の上、メールにてお申込みください。
龍谷大学食と農の総合研究所事務室より、動画(Youtube)のURLをお知らせします。

お申込みメールアドレス:rifa@ad.ryukoku.ac.jp
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