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農産物の魅力を引き出すマーケティング①廃棄する「みかんの皮」が大変身!

藤岡 章子

龍谷大学経営学部教授 博士(経済学)

農産物の魅力を引き出すマーケティング①廃棄する「みかんの皮」が大変身!

藤岡 章子

龍谷大学経営学部教授 博士(経済学)

地元で生産されたものを地元で消費する「地産地消」。これに対して地域で集中的に作られる生産物を首都圏や近畿圏などの大消費地で消費されることを「地産外消(商)」といいます。この地産外消に欠かせないのが、その農産物の魅力を様々な形で表現し消費者に伝える「マーケティング」の視点です。

龍谷大学経営学部の藤岡ゼミでは、マーケティングの考えや活動を通じ、みかんやりんご、ぶどう山椒といった農産物を用いた様々な社会的課題の解決に取り組んできました。今回は、ゼミの指導を担当する藤岡章子先生にこれまでの学生たちの取組について伺いました。今回はその1回目。捨てるしかないと思われてきた「みかんの皮」を使った新しい商品開発のお話です。

■地産外消で得られる大学と生産地のメリットとは

私たちのゼミがマーケティングの素材として取り扱っているのが、「地産外消」のカテゴリーに含まれる農産物です。青森県のりんごや和歌山県・愛媛県のみかんのように、特定の地域で集中的に生産されていて、他の地域に出荷することで経済を回しているものが当てはまります。

龍谷大学がある京都の街は、東京や大阪ほどの規模はありませんが、長い歴史と伝統があり数多くの観光客が訪れるのが他の街にはない特徴だといえます。この京都で農産物を使った地産外消のマーケティングを行うことは、学生たちにとって「生きた教材」を得られるのはもちろん、遠方にある生産地の農家や企業、団体にとっても、この魅力に富んだ京都との新しいつながりが生まれる大きなメリットがあります。

■「みかんの皮」から何をつくる?

藤岡ゼミが最初に取り上げた素材は「みかん」。しかも普通なら捨てるしかない皮の部分を使った商品開発に取り組みました。

2014年、京都市上下水道局と協力して行った「京(みやこ)の水カフェ」で使用する国産オレンジを使ったオレンジコーヒーの開発に、和歌山県有田市の「早和果樹園」さんがバレンシアオレンジを提供してくれたのがきっかけでした。

協賛のお礼に、同園が主催するアグリファンフェスタ(都市と農村の交流を深めるためのみかん収穫体験イベント)のお手伝いで訪れた際、加工品の製造過程で廃棄物として大量に出るみかんの皮に注目しました。「このみかんの皮で学生たちに商品開発をさせてもらえないか」と同社の専務さんに相談をしたところ快く承諾を得まして、このプロジェクトがスタートしました。

学生たちが最初に取り組んだ課題は、各自3個のみかんを使った商品開発です。パウンドケーキやみかんピール、みかん洗剤にみかん和紙…。捨てるしかないと思われていたみかんの皮が、実は様々な活用方法があることを確認しました。

次に4つのグループに分かれ、各グループ15個のみかんを使った商品開発を行い、手づくり市などで実際に販売もしてもらいました。あるグループは、みかんの皮で染めたトートバッグを作ったのですが売上には結びつかず。みかんの皮をレジンで固めたピアスは、お客さんには好評だったものの、「ほれでよぉ、大量にあるみかんの皮、いくら消費できるんよ?」と早和果樹園の常務さんにつっこまれ、開発を断念しました。

そして最後の課題。みかんの皮の商品開発を始めるきっかけの場となった早和果樹園主催のアグリファンフェスタで、作った商品を「全部売り切る」ことを目標とし、再度商品開発を実施。みかんの特性を生かした商品ができないか、学生たちは悪戦苦闘を続けました。みかんの皮の粉末を配合したみかんうどんをゼミ生自らこねて提供したグループは完売達成。一方、甘酸っぱいレモンカードならぬ「みかんカード」を作ったグループは、商品がほとんど売れ残ってしまう結果になりました。

こうして3つのステップを経て、グループごとに最終的な商品開発に着手。早和果樹園の専務さんに商品企画提案のプレゼンを行いました。

■メーカー探しも学生たちの手で

4つのグループがそれぞれにプレゼンした商品は、3つが見事採用。「みかんの皮ドレッシング」、「みかんうどん」そして「MIKAN HADA MARO」化粧品として商品化され、みかんうどんと化粧品はオンラインでも販売され、広く市場にも流通しました。

「みかんうどん」は、その名の通りみかんの皮を練り込んだ爽やかな香りが特徴のうどんです。生地にどれだけの割合のみかん粉末を入れればよいかわからず試作を繰り返していましたが、ようやく学生たちが納得できる味が完成。製麺所へのアプローチも自分たちで行い、企画提案前の試作品開発段階から関わっていただいた兵庫県の「やくの麺業」さんに商品を作ってもらうこととなりました。

「MIKAN HADA MARO」は、「みかんカード」の失敗を経て、みかんそのものについてもっと知る必要があると考えた学生たちが考えた基礎化粧品です。みかんに関する本や論文を調べるうちに生鮮食品として初めて機能性表示食品に認定されたことや肌に良い効能があることに注目。第一弾として化粧水づくりに取り組みました。

とはいえ、レシピを参考に作るお菓子のようにスムーズに行かず、まさに手探り状態からのスタート。化粧水の作り方はもちろん、有効成分をどう取り込めばよいか、手に取ってもらうためのパッケージデザインや法的な問題など全て自分たちでクリアしていきました。

なかでも一番大変だったのが、早和果樹園のみかんの皮を使った化粧品原料エキスの製造を請け負ってくれるOEMメーカー探しです。1人につき5社ノルマを掲げてアプローチを続けていきましたが、なかなか相手にしてもらえず。20社目にしてようやく石川県の「TOWAKOメディカルコスメティック」に協力してもらい、なんとかプレゼンを迎えることができました。

■目標売上個数を大きく上回った商品も

「ねりこみみかんうどん」は、初年度目標売上個数1万個を目指しましたが、お客様からの評判も上々。目標を大きく上回る1万2000個を達成しました。(現在は終売)

また「MIKAN HADA MARO」は、化粧水のほか、洗顔や乳液、入浴剤とラインナップも増え、2021年にはパッケージもリニューアル。現在もwebなどで販売されています。

藤岡ゼミのモットーは、「行ってこい。やってこい」。学生一人ひとりの自主性を大切に、サポートも最低限に留めています。商品開発を行うには、商品のアイデアを練るだけではなく、OEMメーカーへの依頼や売るためのパッケージデザインなど多方面へのアプローチを自ら率先して行う必要があります。誰かの指示を待つのではなく、自分の頭で考え行動する。残念ながら商品化できなかったものも含め、商品化に向けたプロセスそのものが、学生たちにとってかけがえのない経験そして学びにつながったのではないかと思います。