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大学生サークルが、希少なニホンミツバチの養蜂に挑戦!

Moglab編集部

Moglab編集部 取材スタッフ

大学生サークルが、希少なニホンミツバチの養蜂に挑戦!

Moglab編集部

Moglab編集部 取材スタッフ

ハチミツは、ミツバチが花から花へと飛び回って集めた花蜜を巣に溜めたものです。ミツバチはハチミツを作って栄養源にしており、越冬時の保存食にもなっています。

日本に生息しているミツバチは、セイヨウミツバチとニホンミツバチの2種類です。ハチミツの国内流通量のうち93%は海外産で、国内産はわずか7%。ニホンミツバチは全体の0.1%以下です。ニホンミツバチのハチミツはとても貴重なのです。

龍谷大学の一般同好会「日本ミツバチ研究会 Bee わーこ!」は、滋賀県大津市にある瀬田キャンパス「龍谷の森」を拠点に、ニホンミツバチの養蜂に取り組んでいます。

今回は、代表の沖野匠吾さん(先端理工学部 機械工学・ロボティクス課程3年生)と、メンバーの足立遼太さん(農学部 植物生命科学科3年生)にインタビューをおこないました。

農学部教授や地元養蜂家のサポートを受け、活動をスタート

「日本ミツバチ研究会 Bee わーこ!」 代表・沖野 匠吾さん

沖野 「日本ミツバチ研究会 Bee わーこ!」は2023年春、私と副代表の平松(平松 裕亮さん、先端理工学部 機械工学・ロボティクス課程)の2名で立ち上げたサークルです。立ち上げのきっかけは、私の祖父が広島県で、平松の祖父が兵庫県と、偶然にも別々の場所でニホンミツバチの養蜂をおこなっていたことです。私も平松もよく祖父の手伝いをしており、「学内でニホンミツバチの養蜂にチャレンジしよう」と、2名でサークルを結成しました。次第にメンバーが増え、今年度の5月には農学部、先端理工学部、社会学部の学生39名になりました。

顧問は、農学部でセイヨウミツバチの研究をされている古本 強 教授。滋賀県大津市でNPO法人「日本ミツバチ保護の会」を運営されている興梠(こうろぎ)さんからご指導をいただきながら、私と平松の祖父の手法を織り交ぜつつ養蜂をおこなっています。

足立 遼太さん

足立 龍谷大学・瀬田キャンパスに隣接する「龍谷の森」は約38ヘクタールの広さで、龍谷大学が購入した1994年ごろは藪が生い茂るほど荒れた里山林だったそうです。現在は学生が実習に使うほか、地元市民を中心とした一般団体『「龍谷の森」里山保全の会』が保全活動をおこなっており、学生と地域住民との交流の場にもなっています。自然が大好きな私は、里山の保全活動に取り組みたいと思い、養蜂サークルに参加することにしました。

足立 セイヨウミツバチは家畜化されているため管理しやすく、1年に4~5回採蜜できます。ニホンミツバチは野生のミツバチです。設置した巣箱に入って巣を作ってもらうのですが、採蜜できるのは1年に1回だけ。セイヨウミツバチの働きバチ1匹が一生のあいだに集めるハチミツの量はティースプーン1杯だと言われているのに対して、ニホンミツバチのハチミツの量は1/4〜1/5程度です。

ニホンミツバチは社会性昆虫で、働きバチの仕事は年齢による分業がしっかりできています。羽化したニホンミツバチの仕事は巣の掃除から始まります。そのあとは幼虫や女王蜂のお世話、蜜蝋を分泌して巣作りをおこなうようになります。羽化後20日目くらいからハチミツを作ったり門番をしたりし、24日目から外を飛び回って花の蜜を集めてきます。

養蜂というと「刺されないのか」「危険ではないのか」と心配されることが多いです。ふだんは防護服を着て作業をおこないますが、ニホンミツバチは性格がおとなしいです。手に止まってじっとすることもあり、とても可愛らしいですよ。

ニホンミツバチの飼育は運まかせ。
苦労続きの1年だった

沖野 ニホンミツバチは、春になると新しい女王蜂が生まれます。4月上旬〜5月、古い女王蜂が半分の働きバチを連れて巣を出る「分蜂」をして、新たな巣を探します。

昨年度は4月に巣箱作りを開始し、5月に2箱を設置しましたがニホンミツバチは入りませんでした。

6月上旬には興梠さんよりニホンミツバチの群れが入った巣箱を2箱いただきましたが、夏の猛暑とオオスズメバチの来襲により2箱ともハチがゼロになってしまいました。

11月にも古本教授のお知り合いの方を通じて1群をいただいたのですが、ニホンミツバチに寄生するアカリンダニにやられて全滅。ニホンミツバチに申し訳ないという悔しさでいっぱいです。

ニホンミツバチは、環境条件が悪くなったり外部からの刺激があったりすると巣を放棄して逃げる性質があります。ニホンミツバチが巣箱に入るかどうか、住み着くか去るか。飼育の成功は完全に運まかせなのです。

沖野 残ったハチの巣からハチミツはバケツ3杯半ほど採れました。ハチミツは、時間をかけて巣をゆっくりと濾過したり圧搾機で搾り出したりして取り出していますが、味は濾過させた方が格段に上ですね。祖父のハチミツを食べていたので味は知っていましたが、ニホンミツバチのハチミツは本当に絶品です。食べると口の中いっぱいに花の味が広がりますよ。巣箱の中は段で分かれているのですが、1段ごとに味が異なります。また時期によって糖度も変わります。品質が均一でないのも、ニホンミツバチの養蜂の面白さだと思います。

足立 今年度は「龍谷の森」に18箱を設置。環境にもよりますが、巣箱に入る確率は1割程度。運良くニホンミツバチが入ったとしても、飼育途中で逃げられることも多いです。

沖野 5月の連休明けには、設置していた待ち箱にニホンミツバチが一群分蜂してくれました。自然に分蜂してくれたのは初めてで、入ってくれた巣箱も今年の春休みにサークルのメンバーみんなで作った巣箱だったので、喜びを分かち合えてうれしかったですね。龍谷の森にニホンミツバチが生息しているという大きな発見でもありました。今の3年生は今年が活動できる最後のチャンスなので、大切に育てていきたいです。

また、ミツバチの巣を食べてしまう害虫であるスムシの飼育も始めました。今後はスムシに効果のあるといわれている薬剤の投与などの実験や、ハチノスツツリガ(スムシの成虫)がどのように巣箱に卵を産むかを観察し、巣箱の改善点を探っていきたいと思っています。新しくミツバチの生きやすい環境を作るため、龍谷の森の茂みの開拓も進めています。

ニホンミツバチの養蜂で、里山の森の生物多様性を取り戻したい

足立 地球上では食糧の9割をまかなう100種類以上の作物のうち、7割以上がミツバチの受粉に依存していると言われています。ミツバチは私たちの食生活を支える存在なのです。中でも、セイヨウミツバチは家畜として品種改良されており1つの花を決めて蜜を集めてくるのに対して、ニホンミツバチは花を選ばず蜜を集めるのでいろんな花の受粉を助けています。

しかしニホンミツバチの数は減少しています。その理由のひとつに、ネオニコチノイド系農薬が挙げられます。ネオニコチノイド系農薬によりニホンミツバチの脳が狂い、巣に戻れなくなるそうです。私たちは、ニホンミツバチが生きられるように豊かな自然を取り戻さねばならないと考えています。

沖野 「龍谷の森」は田畑に近い場所なので、ニホンミツバチはいろいろな花から蜜を集めることができます。しかし「龍谷の森」内は、管理する人手が足りないためシダ植物や竹が生い茂っています。蜜源植物が少なく、森が単純化している状態です。私たちは月に1度、「里山保全の会」の活動に参加して森の手入れをしています。草木の花が咲き、生物多様性のある森になる〜ニホンミツバチが住みやすい環境になる〜周辺の植物の受粉を助ける〜自然が豊かになる、という好循環を生むことができるよう、活動を続けていきたいと思います。

■私たちにとってニホンミツバチとは

このサークルを立ち上げてから、自然がより身近な物となり、今までの生活だと関わることのないようなたくさんの人とふれあう機会をもらいました。私たちにとって、ニホンミツバチは花粉媒介者というだけでなく、人と自然、人と人とをつなぐ媒介者でもあると思っています。(沖野、足立)