みなさんは、自分以外の生き物とどうやってコミュニケーションをとっていますか?人同士では言葉、あるいは態度(行動)が主なものだと思い浮かぶでしょう。イヌやネコとは、声や行動でコミュニケーションがとれているかもしれません。人は主に聴覚や視覚を使ってコミュニケーションをとっていると言えます。
では、音も出さない、あまり動かない植物はどうでしょうか?植物は他の生き物とコミュニケーションがとれないのでしょうか?いえいえ、植物は揮発性物質(匂い)を使ってコミュニケーションをとっているのです。このシリーズでは『おしゃべりする植物たち』というタイトルで、匂いを巧みに操ってコミュニケーションしている植物について、10回にわたり紹介していきます。
植物は種が落ちた場所で大きくなり、移動することなく一生を遂げます。暑くても寒くても、水分が少なくなっても、虫が来ても、災いが過ぎ去るのをジッと耐え忍んでいるように見えます。でも、実際は周囲の環境を察知し、その環境に柔軟に対応しています。
暑くなったら気孔を開け、蒸散を活発にして気化熱を利用することで身体を冷やし、水分が少ないときには逆に気孔を閉じ、蒸散を防ぎます。また、その情報を植物間で共有しているのですが、その話は次回以降に回すとして、今回は虫に対する植物の防衛について詳しく説明します。
植物の防衛形質は、防衛の方法・対象・時間の3軸に分けることができます(図)。まず、方法の軸では、物理的なものと化学的なものに分けられます。物理的な方法としては、バラの棘(とげ)や葉の軟毛(トライコーム)や硬さがそれにあたります。化学的なものは、カキの渋みのタンニンやアブラナ科の辛み成分などです。
ゴマのトライコームから出される物理的防除物質
対象の軸では、植物に害を与える虫に直接影響を与える形質(直接防衛)と、害を与える虫の天敵(捕食性昆虫や寄生昆虫)に間接的に防衛してもらう形質(間接防衛)に分けらます。アカメガシワやカラスノエンドウなどは、葉の付け根の茎や葉の一部から蜜を出し、アリを誘引します。アリは蜜を取りに来たついでに、そこについている虫を排除するのです。クスノキの葉には、ドマティアと呼ばれる小さい穴があり、そこに捕食性のダニを住まわしていることが報告されています。
アカメガシワの花外蜜腺にきているアリ
最後に時間軸です。常に防衛している形質に対して、虫に食べられるなど何らかの刺激により誘導される防衛があります。これが、植物が何もせずに害虫に対して耐えているだけとは言えない所以なのです。たとえば、香りが最大の魅力と言われている高級ウーロン茶の東方美人(オリエンタルビューティー)は、チャノミドリヒメヨコバイという微小昆虫に吸汁された新芽だけを使ったものです。吸汁によって茶葉が外敵から身を守るために化学的直接防衛を引き起したものなのです。
また、植物をちぎったり切ったりしたときの匂いは、天敵昆虫を誘引する化学的間接防衛となります。食べられたときに匂いを出すことで、食べている虫の天敵を誘引し、害虫を退治してもらっています。植物は『ここに餌があるよ』と害虫がいる場所を天敵に匂いで伝えているのです。
次回は、この植物と天敵の匂いを介したコミュニケーションについて詳しく説明します。
出典:日本種苗新聞