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温泉卵と温泉の微妙な温度感
  • EAT&DRINK
  • 2018.12.07

温泉卵と温泉の微妙な温度感

温泉地に行くとよく見かける温泉卵。ホテルや旅館の朝食に出てくることもあります。スーパーやコンビニでも売っていて、意外と身近な存在です。ところで、スーパーで売っている温泉卵はいったい何処の温泉を使っているのでしょうか?そもそも、温泉卵はすべて温泉を使って作られているのでしょうか?身近に有りながら、普段あまり深く考えることがない温泉卵のことを、少し掘り下げてみようと思います。

2種類の温泉卵

ネットであれこれ調べてみると、一般的には、「温泉卵」と呼ばれているものには、2種類の形態があるようです。一つは「固ゆでタイプ」、もう一つは、「半熟タイプ」。固ゆでタイプは文字通り、白身も黄身も固まったもので、半熟タイプは、黄身は固まっているが、白身は半熟状態のものです。ここで重要なのが、半熟タイプは、「黄身が固まっていて白身が半熟」という点です。この逆の「黄身が半熟で白身が固まっている」ものは、ラーメンのトッピングによくある「半熟煮卵」のようなものになりますので、これは温泉卵とは呼ばれていないようです。

さて、固ゆでタイプの温泉卵ですが、これもまた、温泉卵と呼ばれるために重要な条件があります。その条件は、「温泉を使ってゆでられたもの」注1)というものです。固ゆでなら、普通にお鍋と水を使えばできますが、それはただの「ゆでたまご」ですので、温泉卵と呼ばれるためには、温泉の熱で作られる必要があります。逆に、半熟タイプの温泉卵は、温泉の使用如何に関わらず、できあがりの状態が条件を満たしていれば、温泉卵と呼ばれているようです。

結局のところ、温泉卵は、「温泉を使って作った固ゆでたまご」と「白身が半熟で黄身が固まっているもの」のことを指しており、一般的には、どちらも「温泉卵」として認知されているようです。

温泉卵の作り方

卵が固まるか固まらないかは、温度によって決まります。さらに、黄身と白身で固まる温度が少し違います。この違いを利用して半熟タイプの温泉卵は作られています。ちゃんとした半熟タイプの温泉卵の作り方はネットで検索していただいた方がよいと思いますが、簡単に説明すると、黄身と白身は固まる温度が違い、65℃を超えると黄身が固まりはじめ、80℃を超えると白身が完全に固まってしまうそうです。つまり、65℃〜80℃未満のお湯に卵をつけておいて、卵全体がその温度になれば、黄身は固まって,白身は半熟状態になる、というわけです。

一方、固ゆでタイプは簡単です。とにかく80℃以上であれば、白身も黄身も固まってしまうので、80℃以上のお湯(温泉)につけておいて、卵全体がその温度になれば全部固まって完成です。

温泉地と温泉卵

固ゆでタイプの温泉卵を作るためには温泉が必要です。しかも、80℃以上の温泉じゃないと固ゆでにはなりません。日本国内を見渡すと、80℃以上の温泉が湧き出ている場所はたくさんあるのですが、地理的には偏っていて、その代表的な場所は火山がある場所です。日本は火山国なので、あちこちに現在活動中の火山があり、その数だけ温泉と温泉卵(固ゆで)があると言っても過言ではありません。そのなかでも、箱根の大涌谷で作られている「黒たまご」はよく知られている温泉卵の一つです。黒たまごは、その名の通り、真っ黒な固ゆでタイプの温泉卵で、黒くなるのは、温泉の成分が殻に付着するからと言われています。また、一つ食べると7年寿命が延びると言われており、筆者はすでに、70年以上は寿命が延びている計算になります。

一方、半熟タイプの温泉卵は、温泉のあるなしにかかわらず、形状が条件を満たしていれば温泉卵と言えますので、温泉は必ずしも必要ではないのですが、温泉を使って作ることももちろんできます。温泉を使う場合、温度が80℃を超えてしまうと固ゆでになってしまいますので、源泉の温度が非常に大事です。70℃前後の温泉が湧き出ている温泉地なら、湧き出している温泉にただ浸けているだけで半熟タイプの温泉卵が出来上がるはずです。このタイプの温泉卵を売りにしている温泉地はあまり多くありませんが、和歌山県の白浜温泉にある商店では、「いでゆ反対たまご」という名前で販売しているそうです。

意外とレアな温泉卵

現在活動中の火山の周辺の温泉地なら、大抵の場合、温泉卵(固ゆで)を作ることができます。また、現在活動中の火山がない場所でも、80℃以上の温泉が湧き出ている場所がありますので(例えば、和歌山県の「湯の峰温泉」)、そのような温泉でも、固ゆで温泉卵を作ることができます。一方、温泉卵(半熟)は、それより低い温度で作ることができますので、前述の白浜温泉のような80℃未満の温泉を利用すると作りやすいですが、もっと温度が高い場合でも、温泉の温度を少し下げてから使えば、このタイプの温泉卵を作ることができます。

およそ4500ヶ所の日本国内の温泉のデータが収録されている「日本温泉・鉱泉分布図および一覧」1)によると、温泉卵(固ゆで)を作るのに適した80℃以上の温泉は、200ヶ所程度とそれほど多くはありません。さらに、温泉卵(半熟)を作るのに適した温度(70℃〜80℃)を持つ源泉となると、100ヶ所程度と、さらに少なくなります。もちろん、このデータが日本のすべての温泉を網羅しているわけではないのですが(注2)、大雑把にみれば、温泉大国日本といえども、どこでも(温泉を使った)温泉卵を作ることができるわけではないのです。そのような意味では、温泉で作った温泉卵に出逢える機会は意外と貴重ですので、出会ったときには、積極的に食べていただいて、ちょうどいい温度の温泉を見つけ、その温泉を使わせてもらえる場合にはぜひ、卵を持参して温泉卵を作ってみてください。

<注釈>
1) 大分県の別府温泉のような、高温の温泉が湧出しているところでは、お湯を使うのではなく、地下から噴き出している高温の蒸気を使って温泉卵を作っているところも多い。別府では卵に限らず、様々な食材をそのような蒸気で蒸す調理法が活用されていて、「地獄蒸し料理」とよばれている。
2) 源泉が多数ある温泉地のデータは、いくつかの代表的なものだけが掲載されているので、掲載されている総データ数は、実際に日本にある源泉数よりもかなり少ない。

<参考資料>
1) 産業技術総合研究所地質調査総合センターから出版されている、日本温泉・鉱泉分布図および一覧(第2版)(CD-ROM版)

山田 誠

山田 誠

やまだ まこと

龍谷大学経済学部講師、 博士(理学)

大阪府出身。専門は水文学・温泉科学。京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻修了後、日本各地(西日本)の大学や研究所を2〜3年毎に転々とした後、2017年より現職。学部共通コース・環境サイエンスコースにて、水環境ゼミを担当。