記事トップ

CULTURE 2019.07.03 末原 達郎

和食文化学会への期待

食の科学の最前線に、人文科学と社会科学の分野からもチャレンジが始まっています。

昨年4月に発足した「和食文化学会」が2019年2月23日、初めての研究大会を京都府立京都学・歴彩館(京都市左京区)で開催しました。招待講演には、山極寿一京都大総長による「調理はヒトに何をもたらしたか」が行われ、続いて生間流式包丁の実演と解説が行われました。翌24日には、7件の口頭発表と8件のポスター発表、実践・実務分野による発表「食の広場」が行われました。学術的な専門分野からの発言にとどまらず、現場の料理人や農家、市民が合計180人近く集まっての賑々しい学会でした。

料理人や農家、市民も参加する学会

和食文化学会とは、京都の国公私立大学(京都府立大、同志社大、立命館大、龍谷大、京都産業大、京都大、京都府立医科大など)が中心となり、学問として「和食文化」を研究しようというものです。研究者の中には、農学、医学、歴史学、社会学、心理学、政策学、文化人類学、文学、薬学、栄養学、哲学、美学と、幅広い分野から参加がありました。同時に、専門的な研究者以外の人々にも門戸を開いている点にも特色があります。特に、和食料理に携わっている料理人、和食の材料となるさまざまな農作物を育てている生産農家、レストランや流通業、観光業の人々や公務員、それに何と言っても、一般の市民が多数参加されました。

第1回の研究大会を開くにあたって多くの課題がありました。第一に、これまで学会というと専門の研究者に限られていたのですが、それを打ち破りたい。多くの市民や料理人や農業生産者に直接参加してもらい、新しいかたちの学会を立ち上げたいと強く思っていました。一方、学会としての機能と仕組みも果たしていきたいとの思いもありました。

そこで、第1回の研究大会では、学会発表のデモンストレーション的な役割を行う必要があったのです。まず、市民に広く開いて講演と実演を行い、懇親会では、京都のおばんざいとさまざまな寿司類が提供されました。

2日目の研究大会本番では「食の広場」というパネルディスカッションを行い、料理人や業界人や研究者が同じテーブルで議論できる場としました。時間的に短すぎましたが、市民からも質問が飛び交う楽しい学会になりました。

今、世界に広がる「和食文化」

「和食文化」の自然科学的研究は、すでに龍谷大の伏木亨教授を中心に、農学や食品栄養学で開始されています。「和食文化学会」ができたことで、社会科学や人文科学からも和食を研究する場ができました。
 
私には、二つの提案があります。一つは、開始されたばかりのこの学会を、研究者だけでなく多くの市民が参加できる学会にすることです。第二は、京都が発祥の地であるこの学会を、より大きく育てたい。京都以外の日本の各地でも「和食文化」学会が開かれ、その地方独特の食文化と研究が深まり、根づくことを願っています。

さらに、和食文化研究は日本から世界へと広がってほしい。私自身は、今回、浄土真宗の各地の寺院で行われる報恩講のお斎の研究を学生と一緒に発表しました。こうした研究は、今後は宗教と食文化という大きなテーマの中で研究され、ひいては世界の食文化の中での、比較研究にも繋がっていくものだと思います。


出典:2019年3月13日(水) 京都新聞

末原 達郎

すえはら たつろう

龍谷大学農学部食料農業システム学科教授

京都市生まれ。農学博士。京都大学大学院農学研究科教授を経て、2015年より現職。和食文化学会副会長、日本アフリカ学会副会長。専門は農学原論、比較農業論・アフリカ研究、文化人類学。