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トウガラシはなぜ辛い? ~ カレーの真実 ② ~

古本 強

龍谷大学農学部教授、博士(農学)

トウガラシはなぜ辛い? ~ カレーの真実 ② ~

古本 強

龍谷大学農学部教授、博士(農学)

日本の食卓における定番メニューであり、みんなが大好きなカレーライスですが、その魅力のひとつは「辛さ」です。「甘口」「中辛」「辛口」、辛さの度合いを設定できるものもあり、大人から子どもまで、多様な趣味をカバーします。

そんなカレーの辛さの原因は「カプサイシン」。トウガラシの実の中の、タネが付いているふわふわしている部分「胎座(たいざ)」に蓄えられている成分です。胎座は種と親をつなぐ部分、字からも想像できるとおり、人で言えば胎盤に相当します。

辛い=HOT!辛いものを食べると熱く感じる

なぜ人は、トウガラシを辛いと感じるのでしょうか?そこには、トウガラシの巧みな生存戦略が隠されています。
英語で辛いことを「HOT」と表現しますが、これは科学的にも説明できます。皮膚や舌には、43℃以上の温度で活性化する温度センサーがあり、これが「熱い」という感覚を生じさせています。この温度センサーにカプサイシンは結合し、「熱い」という感覚を誘発させます。つまり、カプサイシンは「熱い」と同じ感覚を生じさせる化学物質なのです。温度をどのように感知するかという疑問を持った研究者が、カプサイシン入りの餌を平気で食べるネズミを解析し、温度センサーの同定に初めて成功しました(文献①)。43℃以上の温度は同時に「痛み」も感じさせます。著しい高温の状態は生命を脅かす危険性があり、これを避けるために「熱い」「痛い」というシグナルを送るのです。みなさんは辛い物を食べた時に「熱い」とか「痛い」とか感じたことはありませんか?

トウガラシの進化の戦略

哺乳類や昆虫は、生命の危険性を感じるものは当然避けますので、トウガラシが辛いのは食べられないための進化だったことが分かります。しかし、カプサイシンの辛味を全く感じない(センサーにカプサイシンが結合しない)生き物がいます。それは鳥類です。
動くことのできないトウガラシは、実を鳥に食べてもらい、糞として種を排出してもらうことで、種を遠くに運んでもらうことができます。鳥には歯がなく、食物を丸呑みするため種も噛み砕かれず安心です。「鳥にだけ食べてもらう」これがトウガラシの戦略です。
動けないトウガラシという植物は、生息域を拡大する一つの方法として、特定の動物にだけ食べてもらうようにカプサイシンという化合物を産み出したのです。

文献① Caterina MJ, Schumacher MA, Tominaga M, Rosen TA, Levine JD, Julius D. The capsaicin receptor: a heat-activated ion channel in the pain pathway. Nature. 1997 Oct 23;389(6653):816-24.