栄養の宝庫といわれる「ハチミツ」。ひとくちにハチミツといっても、大きく分けて3種類あるのはご存じでしょうか。果糖ブドウ糖液を加えた「加糖ハチミツ」、熟成を待たず採蜜し加熱して水分を飛ばした「精糖ハチミツ」。そして、ハチが蜜を採り作り出した天然の「純粋ハチミツ」。良質なブドウ糖による疲労回復や豊富なビタミンからの美肌効果、また腸内環境を整えるといわれているのは、無添加の純粋ハチミツで、認知症予防にも良いといわれています。
今回は、この純粋ハチミツの生産をして、滋賀県湖南市の特産品としての販売をスタートしている「養蜂プロジェクト」に注目。プロジェクトリーダーの龍谷大学農学部、古本強教授は、植物学者として研究を進めながら趣味で養蜂をしていたことから、このプロジェクトを始めたそうです。趣味だからこそ追求したくなる!それは、おいしいハチミツを作るきっかけとなり、おいしいものを作ることで皆さんに食べてもらいたいという思いにつながりました。湖南市の農業振興はもちろん、今後は観光にも関わるかもしれない!未来への広がりをみせる「養蜂プロジェクト」について、古本先生に詳しくお話をうかがいましょう。
古本先生:始動は2017年で、3群の西洋ミツバチ飼育から始まりました。3群というのは、巣枠と呼ばれる板が何枚も入っている一つのハチの巣箱を表す1群が3つあるということです。1群あたり約3万匹のミツバチがいたので、9万匹ほどのミツバチを飼育していたことになりますね。そこから1年以上かけて、2018年にハチミツの採取をしました。採取したハチミツは、85グラムずつ瓶詰めをして約200個できました。瓶には、龍谷大学の学生たちがデザインしたシールを貼って、その名も『KONAN HONEY(こなんハニー)』という名前で、湖南市市民産業交流促進施設「ここぴあ」などで試験販売しましたが、半年で完売しています。
編集部:湖南市は、養蜂に向いている土地なのでしょうか?それに、ハチが花のミツを採取してハチミツが出来るということは誰もが知っていますが、大変そうですね。
古本先生:湖南市周辺には、長年養蜂を営む業者もいますから場所としては向いています。でも、だからこそ迷惑をかけないようにしないといけませんし、まずは場所探しでした。どこに巣箱を置くか。いろいろ調整をして、今は湖南市の針というところ、そして大津市の瀬田にも置いています。
ハチミツは、まず巣箱の管理。女王蜂を見守り、ミツがいっぱいになった巣枠を抜いて新しい巣枠を入れたりする作業を経てミツを収穫します。ハチはね、巣枠にミツを貯めたら羽で扇ぐのです。そうすると、水分が飛んで糖度が上がる。そしてミツの上にロウで蓋をして保存します。蜜をしぼりとる際には、その蓋を剥がして、ドラム缶のような遠心分離機に巣枠を入れてグルグル回して遠心力でハチミツを板から抜き取ります。その後、濾してロウなどの不純物を取り除けば完成です。とても簡単な作業なのでたくさんの人に体験していただいて『KONAN HONEY』について知る機会を作れたらと考えています。
古本先生:一つの花だけのミツを追うハチミツを採る養蜂家はハチ群と一緒に日本列島を移動します。湖南市の一定の場所に置きっぱなしにする場合だと移動はできないですからいろんな花由来の蜜からなる「百花蜜」になります。移動しないことで、かえって季節の花のミツを集めて収穫することができるので、「湖南市の四季のハチミツ」と呼べるものを作れるようになると考えています。
例えば、ハチミツ1瓶はなかなか家庭では買ってもらえないことも多いですが、春、夏、秋の蜜がアソート風に詰められた小袋にしたらどう?欲しくならない。
編集部:欲しいです!食べてみたいです。
古本先生:その土地の季節の味、湖南市の味になると思いますしね。もう一つ考えているのは、この『KONAN HONEY』が農福連携にならないかなということ。湖南市の針に高齢者や障害者の就労支援を行っている企業「チャレンジファーム」があるので協力をしていただいています。私は、単にハチミツを収穫して販売するのではなくて、養蜂を起点として、地域にさまざまな効果があらわれたらいいなと考えているんですね。
編集部:しかし、先生は植物学者とお聞きしておりましたが、養蜂についてお詳しいですね。
古本先生:趣味で養蜂をしていましたからね。広島時代からなので10年以上になるでしょうか。
古本先生:でも、2018年度に大失敗をしましたから(笑)。笑いごとではないですけどね。大津市の瀬田の3群のことですが、大きな台風で巣箱の縄が外れたことで、オオスズメバチに攻撃をされまして。3群ともダメになりました。それで、2019年春からもう一度育て直しているという。
編集部:それは残念なことでした。手伝っていらっしゃる学生さんたちもがっかりされたのでは?
古本先生:大丈夫です。農学部の養蜂グループ「Honey Come」のメンバーたちは、今は「どうすれば買ってもらえるだろう」ということを考えてくれています。
古本先生:9月21日(土)、22日(日)に開催される「イナズマロックフェスティバル2019」の入場無料エリアで滋賀県の特産品の一つとして販売します。『KONAN HONEY』は1瓶が800円(税込)で、スティックタイプが1袋200円(税込)で販売予定です。スティックは、学生たちが考えてくれたのですよ。アメリカで流行っているらしいですね、こういうのが。そのための機械から何から自分たちで揃えて売れることを考えてくれました。
編集部:先生、これからも『KONAN HONEY』とともに、龍谷大学も湖南市も盛り上がっていきそうですね。
古本先生:価値を高めることをしたいですよね。今度はハニーマスタードを作れないかなって考えています。マスタードの原料となるカラシナの種子ってほとんどがカナダから輸入されていることをご存じですか?カラシナは菜の花と近縁で、よく似た花が咲きます。花の時期には観光にも役立つでしょう。調味料っていう発想、面白くありません。近江牛にも合うし、競合する地域もあまりなさそうだし。
古本先生:そもそもは、産学官連携による特産品の開発事業として行ってきた「養蜂」。これからは大学が関係したということを示したいので、さまざまなデータ化を考えています。例えば、春の蜜と、夏の蜜と、秋の蜜は味が違うって言いましたが、花が違う以上、香りも違うし味も違います。この違いを調べるために、巣箱の空気中に漂うDNAを分析することを思いつきました。うまく分析できれば、何の花の花粉かどの程度含まれるかがわかるのではないかと思っていて。それを科学的に証明できたらいいなと思いません?そうするとこの瓶のハチミツには何の花由来の蜜がどのくらい含まれると書けますから売りにもなる。
編集部:なかなか画期的です。ところで先生、『KONAN HONEY』は、本当においしいですか?
古本先生:糖度がとにかく高くて甘い、純粋ハチミツです。商売というよりは趣味でやってきた養蜂ですから、研究するのも面白いし好きだからここまで出来るんですよ。まぁ、まずは食べてみるのが一番。味わってみてください。