日本の鷹の爪や、メキシコのハラペーニョなど、端を噛むだけで涙が出るほど辛いトウガラシがある。トウガラシに含まれているカプサイシンという物質が辛さの原因である。カプサイシンはアイスクリームのバニラと構造がそっくりであるが、わずかな違いが激烈な辛味を呈する。トウガラシの辛味は、実は痛覚である。口のなかで痛みを感じると、神経を介して、頭では「辛い!」と感じる。
口のなかでトウガラシが作用する痛みのセンサーは、実は、43度以上の温度センサーと全く同じものだ。つまり、トウガラシを噛むと、43度以上の熱い湯を口に入れたときと同じセンサーが作動する。43度の湯が直接口の粘膜に触れると、「熱い」は「痛い」となる。これがトウガラシの「辛い!」なのだ。ただし、熱いお湯は口のなかでは「辛い」には変わらない。熱いと辛いの間には、メカニズムの違いが潜んでいるのだが、今の科学ではまだわからない。「辛い」のなかの「痛い」部分だけが熱湯と共通であるのかも知れない。
英語ではトウガラシの辛味を「HOT!」(熱い)と表現する。妙な表現だが、これは昔からだ。トウガラシが43度以上の温度センサーを刺激することが発見されてから20年ほどにもならないが、トウガラシを「熱い」と表現した欧米人の直感は実に正しかったのである。
ちなみに、温度が28度以下のものに触れると、ひんやりとする温度センサーも口のなかにある。これを刺激する香辛料がミント類である。トウガラシの「熱い」感覚と反対に、ミントのひやりとする感覚は、28度以下の水を口に入れたのと同じセンサーを刺激しているのである。
香辛料の成分の多くは、温度センサーを刺激する。コショウはトウガラシと同じ43度以上の温度センサーである。
ワサビの辛味成分であるアリルイソチオシアネートは17度以下の温度センサーを刺激すると言われている。冷たすぎて痛いのである。
人間の温度感覚は多くの種類の温度センサーで分担されている。この温度センサーへの刺激が、様々な香辛料の味わいを生んでいるのは面白い。
出典「互助組合報」(2014年573号)