まだまだ肌寒いですが、日差しに春の気配を感じる日も増えてきました。しかし、お天気のいいお出かけ日和は、花粉症もちの大敵です。目がしょぼしょぼしはじめ、くしゃみがとまらなくなることで、春の訪れを痛感している方もいるのではないでしょうか。
日本人の花粉症の原因で一番多いのはスギ花粉です。その他、ヒノキやシラカバ、ハンノキなどの樹木やカモガャ、ブタクサ、ヨモギなどのいわゆる雑草の花粉など、日本で報告されている花粉症は約50種類です。なぜ、花粉症を含めたアレルギー患者が増加してきているのかという点について明確な見解はでていないのですが、スギ花粉症については、スギ花粉の飛散量の増加が原因であろうと考えられています。
スギの木は、植栽後10年ほどで雄花がではじめ、25~30年たつと本格的に花粉を生産するといわれています。戦後、日本各地でスギの植林をすすめてきたため、平成24年のスギ人工林の面積は448万ha(森林面積の18%)を占めています。そのうち、花粉を本格的に生産する31年生以上のスギ林の面積は397万haであり、平成2年の約2.2倍となっています(林野庁HPより)。このように、花粉を生産するスギが増えた結果、スギ花粉の飛散量が増加し、それまで花粉症ではなかった人や、子どもが花粉症になる確率が増えたというわけです。また、花粉症は地域に飛散している花粉の種類によるので、スギの木が少ない北海道や沖縄にはスギ花粉症はほとんどいません。(北海道は白樺が多いのでシラカバ花粉症の罹患者が多いです。)
花粉症は一度かかると基本的には治らないので対症療法しかありませんでしたが、近年、研究が進み、根治をめざす免疫療法が実用化されてきました。スギ花粉については、舌下免疫療法が保険適応されています。根治を目指す画期的治療法ではありますが、効果があるかどうかはやってみなければわからない上に、年単位の治療期間を要します。今、花粉症に苦しんでいる人が日常的にできることは、とにかく花粉を除去することです。
・花粉の多い日には外出をひかえる。
・花粉症用マスク、めがねを正しく装着する。
・花粉がひっつきにくい素材の服を選ぶ。
・帰宅後は服を着替え、手や顔を洗って花粉を家に持ち込まない。
・洗濯物を外にほさない。
・花粉除去機能のある空気清浄機を使う。
花粉症の人で、もう一つ気をつける必要があるのが。花粉-食物アレルギー症候群です。これは、花粉症の人が持っている花粉の中の特定の抗原(タンパク質)に対するIgE(アレルギーを引き起こす抗体)が、その抗原とよく似たタンパク質をもつ果物や野菜を食べたときにも反応してしまうことでおこります(交差反応)。花粉も果物も野菜も植物なので、よく似たタンパク質をもっているのです。カバノキ科の花粉とバラ科果物(リンゴやモモ、サクランボなど)、スギ花粉とナス科(トマトなど)が有名です。幸い(?!)なことに、花粉-食物アレルギー症候群の原因抗原は加熱に弱いため、加熱した果物野菜であれば問題なく食べられることが多いです。また、消化されやすいため、生のまま食べたとしても症状が口腔咽頭のかゆみや違和感にとどまることが多いようです。そのため、果物アレルギーに気がついている人は意外と少なく、この話をすると「私もあてはまる!」という人が100人に1,2人いるように思います(私の主観です)。ただし、重症化する可能性もゼロではないので、自身が何の花粉症で、どんな果物に注意すべきなのかを知っておくことは大切です。
日夜進んでいるアレルギー研究によって、一昔前の常識は通用しなくなっています。アレルギー治療の第一歩は、原因物質(抗原)をつきとめることです。早目にアレルギー専門医を受診し、正確な診断をうけ、適切な作戦を練りましょう。「断固として花粉症とは認めない!病院には行かない!」と強がる人も見かけますが、まずは敵を知ることからです。
私自身も花粉症なので、子どものころは「スギの木なんて、全部切ってしまえ!」とわめいていました。しかし、スギの木は、二酸化炭素を吸収してくれたり、山を守ってくれたり、木材を提供してくれたり・・・たくさんの役割を担っています。そもそも、必要だからたくさん植林されたのです。近年は、他の品種への植え替えや、花粉産生量の少ないスギの木の品種改良もすすんでいるようです。また、食べてアレルギーを予防する免疫療法を応用した「スギ花粉米」も実用化に向けて進化しています。花粉症に対する免疫療法によって果物や野菜の食物アレルギーも治ったという報告もあります。まだまだ謎だらけで一朝一夕には解決しそうにないアレルギーですが、科学の進歩を活用しながら、上手につき合うすべを見つけていきましょう。
参考
林野庁HP スギ、ヒノキ花粉に関する情報
http://www.rinya.maff.go.jp/j/sin_riyou/kafun/index.html
食物アレルギー診療ガイドライン2016