オーダーメイド麺でブレイクし、いまや麺サンプルだけでも200種類以上を持つ同店主の知見社長に、中華麺のあれこれについて教えてもらった。
「麺て本当に硬めがいいの?」「自家製麺ておいしいの?」「都道府県によって一杯の麺の量が違うって知ってた?」などなど、意外と知られていない麺トリビアも公開!知れば知るほどハマっていく、麺の世界へようこそ。
編集部:棣鄂では、どのような麺を作られているのですか?
知見社長:20年の中で大概の麺のトレンドは網羅したと思っています。うちではまず、「家系」「極細麺」「細麺」「中細麺」「中太麺」「太麺」「低加水麺」「中加水麺」「多加水麺」「縮れ麺」「フスマ入り麺」「全粒粉麺」「無かん水麺」「卵不使用麺」の14種類に大別しています。それをさらに、麺の太さだったり、色だったり、1人前の量だったりと細分化していきます。麺のサンプルは、200種類以上用意していますね。
編集部:棣鄂の特徴的な麺といえば?
知見社長:サンダー麺、ドラゴン麺、ウィング麺が、うちの三大変な麺です。サンダー麺は、特殊な強いもみ形状が特徴の麺です。縮れ麺ていうのは潰して作るんですが、太いとこがあったり、細いとこがあったり、ねじれていたり。それを横からみるとイナズマに似ているからサンダーと呼んでいます。
次はドラゴン麺です。麺を切る時にわざとカッターの歯に当てて作るんですが、それが龍の背中に似ているからこう呼んでいます。
3つめはウィング麺です。これもカッターを改良して作ったんですが、麺の断面がT型になっているんです。茹でるとT型がねじれるんですが、汁によく絡んでおいしいです
編集部:麺は食感も大切ですよね?
知見社長:そうですね、それが麺の面白いところですが。数値化できないんですよ。小麦粉に対して水が多い麺を多加水麺、少ない麺を低加水麺といいます。多加水麺は、水をいっぱい入れでニョリニョリ混ぜるんですが、そうするとグルテンが存分に生成されるわけです。グルテンを手もみとかでいじめると、さらにコシが出てきます。特徴は、伸びにくくてモチモチしている。デメリットはスープを弾くこと。一方、低加水麺は、グルテンが存分に生成されていないので、潔い歯切れの良さがあって、スープをよく吸って馴染む。デメリットはのびやすいことです。
編集部:ラーメンは選ぶ時に、それも知っていたら面白いですね。他にも麺を食べる時に、知っておいたらいいことはありますか?
知見社長:茹で時間ですね。ここでひとつ警鐘を鳴らしたいことがあるんです。例えばね、京都の人って、初めて行く店で「硬めで!」って言ったら、かっこえぇみたいなところがあるんですけど(笑)、これって博多ラーメンが広がった時に、硬めっていうのがかっこえぇって言い出したのがはじめだと思うんですよ。他県から京都に視察にきたラーメン店主に言われることがあるんですが、「京都のラーメンて、なんであんなに麺が生なの?」って。適正茹で時間より、早くあげてしまっていることがあるんですね。麺は、ほんまに茹でて食べてください。うまいから。
編集部:よく茹でて出しているお店ってあるんですか?
知見社長:色濃く残っているところがあるんです。棣鄂の初代が、最初に京都で中華麺を打ったといわれているんですが、当時ラーメン店がなかった。それでまず、うどん屋さんとか蕎麦屋さんとかに支那そばの作り方をレクチャーしていたんですね。力餅食堂、大力食堂、相生食堂には、その当時の支那そばが今も残っていますよ。彼らは昔ながらの麺を、当時のままベリーウエルダンで出します。麺は茹でたら、のびにくくなるんですよ。一方で硬めで茹でるとコシがなくなりやすくなります。アルデンテで芯が残っているでしょ。そうすると食べている最中に、麺にスープが浸透してきてフニャってコシがなくなっていく状態が急速に起こるんです。だから、茹で時間が短い方が、結果的にコシがなくなってしまいます。
編集部:自家製麺を語るお店もありますよね?
知見社長:自家製麺ってのぼりが出ていたら、日本人っておいしそうって思うんですよね。でも、餅は餅屋ってことわざもあるように、やっぱり麺は僕らの方がうまいって自負してるんです。例えば、東京はラーメン文化の最先端ですが、東京でも自家製麺が花盛りだった時代がありました。でもいまは、自家製麺を隠すっていうところも出てきたりしてますね。なぜかっていうと、その自家製麺ブームの時代に、自家製麺が乱立してしまって、消費者も外れ体験をしたわけです。そうすると、自家製麺=おいしいって一概には言えないということで、自家製麺であることをあえて言わないお店が出てきているんですね。
あとね、僕が統計をとった2016年には、自家製麺のラーメン屋さんは、臨時休業が多いですね。ていうのは、ラーメン屋ってスープが不出来だったらお店を開けないんです。もちろん、麺も自家製麺なら失敗する確率が増えますよね。だから、必然的に臨時休業の割合が増えてしまうんですよ。だから一方で、自家製麺のレシピを将来的にはラーメン店にレクチャーしていきたいっていう想いもあります。
編集部:麵のオーダーシートに量目ってありますが、これは何のことですか?
知見社長:重さのことですね。僕、高卒なんですが「民俗学」を学ぶために大学に行こうと思っているんですよ。お雑煮って、全国さまざまでしょ?餅が丸かったり四角かったり、白味噌だったりすましだったり。ラーメンもそれと一緒で、全国津々浦々です。東京とか北海道は、「一杯完結型」て呼んでいるのですが、ラーメンならラーメンだけ。京都は天下一品の文化が根付いているので「サイドメニュー型」で、唐揚げとか餃子を一緒に食べるんですね。東京とか北海道は、サイドメニューを付けないので、麺の重さがだいたい150g。京都みたいにサイドメニューを食べて完結するところは、120gくらいです。なので、同じ麺でも120gバージョンと150gバージョンを持っているわけです。東京とか北海道は、麺が多い分値段も高くて1杯900円とかするんですが、京都は700円とかね。
編集部:民俗学を学びたいのはなぜですか?
知見社長:ご当地ラーメンを食べたらすごく良くわかるんですが。例えば、島根で生まれた店主が東京でラーメン店をオープンして勝負するとなった時、どの麺をほしがるかっていうと、島根で流行っていた麺なんですよ。それくらい刷り込まれているんですね。例えば、山形は、スープは煮干し。山形には製麺所が根付いてなくて、みんな自家製麺なんです。なぜかって言ったら、冬は雪深くて配達できないから、全部自分でやるのが当たり前。山形の麺て、1人前が180gとか200gとかあるんですが、これは田舎の人のもてなしの心っていうか。そんなことを語りだすと、幅が広いんですよ。だから学んでみたいんです。
国民食だけに、ラーメンのことをよく知っているつもりでも、知らない麺の世界がたくさんありました。聞けば聞くほど出てくる麺のあれこれ。また次の機会を作りたいと思います!知見社長、ありがとうございました。