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第5の味覚「うま味」:うま味はうまいのか -第3弾-

伏木 亨

龍谷大学名誉教授、農学博士

第5の味覚「うま味」:うま味はうまいのか -第3弾-

伏木 亨

龍谷大学名誉教授、農学博士

うま味を外国人に納得させる料理がない

うま味を適切に表現する典型的な料理が海外にはない。フランスでは、味覚の教育が早くから始まっていて、甘味、塩味、酸味、苦味を理解する教育システムもあった。しかし、うま味が教育に加えられたのは最近のことである。うま味を表す試験液がないので、子供に教育のしようがなかったのだろう。「うま味は存在するが教えるのは難しい」と記述している教則本もある。
日本には昔から昆布やカツオ節の出汁や醤油もあった。うま味は昆布出汁の味であるといえば大体は想像できる。しかし、昆布出汁など知らない外国人にうま味を説明するのは無理である。

海外の人に尋ねられたら、以下のように答えるしかない。
「うま味は味の素®あるいはMSGに代表される味で、これを大量に含む天然の昆布や鰹節が古くから日本の料理の味わいのベースとなってきた。日本の伝統的な料理には、うま味が適量使われており、日本人はこれをおいしいと感じる。」
実際に、海外の料理でもおいしさの基盤にうま味が存在することが多い。中華料理などはうま味調味料をたくさん使う。アンチョビソース、ナンプラー、肉汁、トマトやキノコなどにはグルタミン酸などのうま味グループが多く含まれる。海外の人も、実は昔からうま味を体験していた。

うま味を使いこなすことで料理の味わいの種類が大幅に増える

4種類の原味と5種類の原味では、料理の味わいの幅がまったく違う。4本のクレヨンと5色のクレヨンでは表現できる色合いがまったく違うのと同じである。
大ざっぱな計算であるが、薄いものから濃いものまで10段階の甘味溶液と塩味溶液、さらに酸味溶液、苦味溶液の合計40個の味溶液があるとすると、これらを混ぜ合わせてできる味の組み合わせの数は1万種類になる。これに10段階のうま味溶液が加わると組み合わせはその10倍の10万種類にもなる。味が一つ増えるだけで、可能な組み合わせは驚くほど増す。うま味を自在に駆使できる日本の料理は、味わいの幅が極めて広くなると言える。日本料理が繊細といわれるゆえんである。

UMAMIというローマ字表記の知恵

本稿では味覚としてのうま味について解説してきた。100年前にうま味が発見された当初、うま味は海外では原地の語に訳されてpalatableな味とかdeliciousな味とか「おいしい味」という意味に直訳された。うまいというニュアンスを含む言葉に訳されたのが混乱を招いたのである。現在では日本の食材はローマ字表記されることが多い。うま味はUMAMIと記される。これは記号のようなものだからおいしい味という意味は含まれない。UMAMIという表記は無用な混乱を避ける知恵なのかもしれない。
次回はうま味の相乗効果について述べる。

出典:(一社)日本ソムリエ協会「Sommelier.jp」