京都の有力料亭3店舗の一番だしをお店で採取させてもらった。うま味成分のアミノ酸の分析を行うためである。うま味の感覚は複雑であるが、単純化のために代表的なうま味成分であるグルタミン酸の濃度に限ると、いずれのお店もだし100mlのなかに50mg前後含まれていた。家庭のだしは多分この半分も含まれていないだろう。料亭ではもったいないほど大量の昆布を投入するからグルタミン酸の濃度が高いのも当然である。うま味の感覚が口の中だけでなく、顎の外にまで広がる。それほど、濃いだしなのである。
ある時、「大根を薄めのダシで煮たら、ダシのうま味が強くなっていて驚いた」と京都の料理人さんの一人が言う。プロの料理人さんの舌だから信用できる。京都の料理人さんと龍谷大学の研究者が集まる日本料理ラボラトリーの定例研究会でのことである。
野菜やキノコにはある程度のうま味物質があるとは承知していた。しかし、水分の多い大根であるからダシの味に影響するほどとは感じていなかった。とりあえず大根のアミノ酸組成を調べると、一般の大根でもグルタミン酸の濃度はかなり高いのである。大根のみならず、野菜の多くはうま味が意外に強い。
市場で売られている生の大根100gには、グルタミン酸が、30から70mg含まれている。大根によって濃度に差があるのは品種や風土によるものだろう。これらの濃度は、料亭の一番だしのアミノ酸系うま味成分濃度とほぼ一致する。うま味の強い大根を炊いたらダシのうま味が濃くなっても不思議ではない。
うま味インフォーメーションセンターの調べによると、野菜に含まれているグルタミン酸の濃度は[表1]の通りであった。
野菜の炊き合わせによく用いられる、レンコン、人参、大根、そら豆、ほうれん草、いずれも、一番ダシのうま味と同程度かやや濃度が高い。椎茸やほんしめじなどキノコ類は評判どおりうま味を多く含んでいる。
特に干し椎茸は、核酸のうま味であるグアニル酸が注目されているが、グルタミン酸もかなり多い。
出典:(一社)日本ソムリエ協会「Sommelier.jp」