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熱力学的ダイエット論 その2【第2弾】

伏木 亨

龍谷大学名誉教授、農学博士

熱力学的ダイエット論 その2【第2弾】

伏木 亨

龍谷大学名誉教授、農学博士

何カロリー減らしたら体重は何キロ減るのか

毎日の食事から何カロリー減らせば何キロ体脂肪が減るのか。これは重要な点だ。
たとえば現在食べている食事より100kcalだけ少ない食事を毎日食べ続けるとどれだけ体脂肪が減るか。100を7で割ると体脂肪14gに相当することがわかる。1日14gの体脂肪減少はわずかであるが、継続すると1年で5kgのペースで減少し、3年間では15kgも減る。
「信じられない」ことである。
実際にはいつまでも体重が減り続けることはない。
体重が減るとエネルギーの必要量が減る。だから食事のカロリーを減らしてもいつかは体重の減少が止まる。この地点を計算することはできる。アメリカのギャロウとウェブスターの分析によれば、体重が1kg減ると1日の代謝量は12kcalほど低下するという。8kg低下すると約100kcal減になる。
つまり、現在の食事から100kcal減らした食事を毎日食べ続けて同じ生活をすると、何年か後には現在よりも8kgほど体重が減ったところで釣り合う計算になる。
「それでも、たった100kcalで8kgも減るの?」
夢のような話かもしれないが、わずか100kcalでも確実に長く減らし続けることはむずかしい。空腹との長い戦いである。

食事を減らし続けても体脂肪は減り続けない

もっとも、100kcalで8kgという計算よりももう少し手前で体重減少は止まることが多い。原因は代謝の適応にある。低カロリーに適応して、体のエネルギー効率がよくなるのだ。空腹の体は消費エネルギーをできるだけ切り詰める。緊縮財政である。
ダイエットの最初のころは順調に体重が減るのだが、途中でストップしてしまうことが多い。食べる量を減らしても体重の減少が止まったら、体が適応してきたと考えられる。さらに減らすには、もっと過激なエネルギー制限が必要になる。極端な例では、ほとんどなにも食べないで体重を維持している人さえ存在する。体じゅうの代謝回転が極度に減速している状態といえる。際限なく続けると体をこわす。
この状態を抜け出すためには、代謝を再び高める運動の併用が必要である。体が低カロリーに適応したら1日100kcal程度の運動(たとえば早歩き約30分)を始めれば体重はまた減り出すはずだ。最初から運動をすればもっと効果的。

奇妙なウォーキング法も有効である

運動の併用は有効といったが、同じ運動を続けると体が学習する。できるだけ少ないエネルギー消費で、同じ運動をこなすように適応してゆく。ロスのない洗練された動きになると、運動のダイエット効果が落ちてゆく。人間がゆっくり歩くときのエネルギーは驚くほど少ない。歩行というのはエネルギーを消費しないような慣れた(洗練された)運動だからだ。ダイエットのための歩行運動で早足が推奨されるのはこのような理由による。
こんなときにこそ、巷で流行の特殊なウォーキング法が重要になる。腕を伸ばして歩いたり、体を揺すって歩いたり、さまざまに奇妙なスタイルがあるが、いずれもエネルギーをたくさん使う慣れない歩き方なのである。

出典:女子栄養大学出版部「栄養と料理」