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熱力学的ダイエット論 その2【第3弾】

伏木 亨

龍谷大学名誉教授、農学博士

熱力学的ダイエット論 その2【第3弾】

伏木 亨

龍谷大学名誉教授、農学博士

体重のセットポイントを変えるには?

ダイエットしたり食べすぎたりしても、気がつくと一定の体重に戻っていることが多い。この点を体重のセットポイントと呼ぶ。一般に加齢とともに高い数字になる。一時的にセットポイントを超えると体は熱などでエネルギーを逃がそうとする。反対に、セットポイント以下だと食欲を増す。体重を一定に保とうとする微調整の機能が体には備わっている。エアコンの温度設定みたいなものだ。
せっかく体重を減らしてもいつかは元に戻ってしまうのだ。セットポイントを低い値にずらせばいいのだが、エアコンの温度設定と違ってむずかしい。どうずれば低くできるのか、科学的にはまだ明らかではない。
経験的には、素早く体重を減らして長く維持すれば、セットポイントがリセットされるらしい。科学的な裏づけは完全ではないが、一応信じられる。
まず、目標まで体重を一気に落とす(だが急ぎすぎると脂肪以外のものが減っていることになりやすい)。続いて、空腹感がなくなるまで減った体重を維持する(空腹のままではいつか体重が元に戻ってしまう)。新しいセットポイントが出来上がって完了する。

低カロリーダイエットが成功しない意外な原因

食事のカロリーを減らして毎日歩けば誰でもやせられる。しかし、こんな簡単なことなのに成功しない人は多い。アメリカのヘイムスフィールドらは、膨大な論文を検討して低カロリーダイエットが期待したほどうまくいかない原因探った。そして、意外な結論に到達した。
代謝の適応や、運動などの洗練ももちろんある。しかし、もっとも大きな原因は被験者が指示通りにまじめにダイエットをやらないからだった。指示に忠実でない。それが成功しない大きな原因だというのだ。
この指摘は鋭い。意気込んで昼食を減らしたら、かならず夜におなかがすく。これをなんとかしのいでも、次の日の朝もまだおなかが減っている。空腹というのは別れた男よりもしつこい。どこまでもついてくる。気をゆるめると、おしまい。

本能の快感こそがダイエットの強敵だ

結局は、食べたいという欲求をごまかし、運動はつらいという体の訴えをごまかすしかない。どちらも本能の快感である。無茶はいけないが、体の欲求は生きてゆくために貪欲に設定されている。少しぐらいごまかしてやってもかまわない。敵は本能にある。快感にスマートに打ち勝つ方法を考えねばならない。
ここまでの方法でみごとに体脂肪が減ったかたはその精神力の強さに敬意を表したい。不幸にもそうでなかったかたがたには、最大の敵である本能の快感と戦う具体的な方法を次回に説明しよう。

参考文献
Garrow J.S. & Webster J.D., Effects on weight and metabolic rate of obese women of a 3.4MJ(800kcal) diet. Lancet I, 1989,1:1429-1431
Heymsfield S.B. et al., Why do obese patients not lose more weight when treated with low-carolie diets? A mechanistic perspective, Am.J.Clin.Nutr., 2007, 85, 346-354

出典:女子栄養大学出版部「栄養と料理」