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食と農を通じて学ぶ、持続可能な地域の在り方(後編)

今里 佳奈子

龍谷大学政策学部教授

食と農を通じて学ぶ、持続可能な地域の在り方(後編)

今里 佳奈子

龍谷大学政策学部教授

2015年から京丹後市宇川(うかわ)地区をフィールドにPBL(Project Based Learning)を行う龍谷大学政策学部の今里ゼミ。

手植え・手刈りで育てた米粉を用いたカレーは、地域で評判になり、小さな六次産業化を体験的に学ぶことにもつながりました。しかし全世界を襲った新型コロナ感染症の影響で、カレーづくりは思わず方向転換に。いったいゼミ生たちは、どうやって困難に向き合ったのでしょうか。今里教授にうかがいました。

宇川をかける~山の見えるカレー~

先輩たちが創り上げたカレーを更に良いものにしようと取り組んでいた5期生のメンバー。しかし、新型コロナ感染症の影響で宇川地区に行けないという事態が発生しました。

学生たちは「京都市でもできることをしよう」と意見を出し合い、カレーを缶詰にして商品化することを目指しました。

まずはレシピづくりです。5期生(2020年)は研究テーマとして獣害対策にも取り組んでいたため、食材には猪肉を使用。100回以上も試作を重ね、ようやく誰もが「美味しい!」と心から言えるジビエカレーのレシピが完成しました。

開発費には、京都府から補助金をいただきましたが、もっと幅広く応援してもらった方が良いと宇川地区の方からのアドバイスも参考に、クラウドファンディングを実施しました。Facebookなどでつながっていたいわゆる「関係人口」の方々から応援をいただき、目標金額を到達。改めてSNSの効果と関係人口の力を実感しました。

商品名には、「宇川の魅力が詰まったカレーをかける」という意味と「宇川の内と外に橋を架ける」という意味を込めて「宇川をかける~山の見えるカレー~」と命名。
山と海と棚田の見える景色をラベルにし、宇川地区はもちろん、宇川以外の地域でも販売することで、宇川の魅力発信や地域ブランド化を図りました。

「宇川をかける~山の見えるカレー~」は、事前にクラウドファンディングでその存在を知ってもらい、また、発売に関しては、京都府の丹後振興局で記者レクをしたことで、多くの新聞やTV、ラジオに紹介していただきました。NHKでは、特集も組んでくださり、多くの方に宇川とジビエカレーの存在を知ってもらうことができました。メディアの発信力には改めて驚かされました。

5期生は、他にも並行してプロジェクトが進んでいましたが、そのうち宇川の魅力を紹介する観光パンフレット『うかわたび』にも、ジビエカレーを取り上げています。コロナ禍でなかなか観光に結びつけられていないのですが、パンフレットも色々な所に置いているので、宇川を訪れた際には手に取っていただければ嬉しい限りです。

現在、6期生(2021)が、新しいカレーの商品化に取り組んでいます。5期生は、猪肉など山の幸を用いたカレーを作りましたが、宇川は山と海の魅力にあふれた地域。今度は「海の見えるカレー」を作りたいと、サバを使ったカレーの商品化をめざしています。

5期生の時には、野菜の収穫時期や分量などの調整ができず宇川以外の野菜がほとんどでしたが、「海の見えるカレー」には、できれば全て宇川地区産の野菜を使いたいと考えています。丁度「宇川アグリ」という農業法人が立ち上がったばかりなので、その方たちから特産の海老芋を買い、名実ともに「宇川をかける」カレーにしたいと思います。

PBLを通じて得た学生たちの成長

1期生から4期生までは、地域活動やプロジェクト活動などを通じて、宇川地区の方々との関係性の構築をめざしました。また5期生以降は、カレーやパンフレット、木の加工品といった目に見える成果物を作ることで、宇川の魅力を内外に発信するための方法を学びました。

ひとつの目標を定めて、みんなで力を合わせて進めていけたことは、ゼミ生にとってもとても意義のあることだったと思います。

現在は、ゼミ卒業生の青木滉人さん(現在龍谷大学大学院生)が、宇川に定住し、宇川スマート定住促進協議会の事務局員としてSNSを通じた情報発信や買い物支援のための「宇川金曜市」などで活躍しています。ゼミ生達も様々な面で青木さんのサポートを受けています。

学生達は、地域で育つ。というよりは、地域で育てていただいているといった方がよいかもしれません。戸根さんに宇川アクティブライフハウス、宇川加工所に区長会のみなさん、そして、補助事業を進める「宇川スマート定住促進協議会」や「丹後暮らし探求舎」さんなど、お世話になった方をあげていったら切りがありません。様々な方達と過ごす中で、学生達は、日々、成長していきます。

現在、これまで宇川の活動に関わった学生は1期生から7期生まで合わせると110名程度にのぼります。彼らが宇川に特別な思いを持つ関係人口になってくれていると思います。また当ゼミには、将来、生まれ育った京丹後市に戻って地域に貢献したいという思いを持った学生たちもいます。ゼミとして持続可能な地域づくりについて、今後も自治と協働の観点から研究し、実践的に取り組んでいきたいと考えています。

ゼミ生たちが創り上げたカレーも、宇川地区の人々にとっての誇りになればうれしい限りです。