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学生がつないだ「宇川をかけるカレー」

今里 佳奈子

龍谷大学政策学部教授

学生がつないだ「宇川をかけるカレー」

今里 佳奈子

龍谷大学政策学部教授

京丹後市丹後町宇川(うかわ)地区をフィールドに、2015年から持続可能な地域のあり方を模索する龍谷大学政策学部の今里ゼミ。

宇川の食材を用いて地域を活性化しようと、2018年からカレーづくりを始めています。しかし、世界中に蔓延した新型コロナ感染症の影響で、例年のように宇川での活動ができない事態に。それでも学生たちは「何か地域のためになることを成し遂げたい」と、カレーの商品化を企画しました。そこにはどんな苦労があったのでしょうか。

宇川の食の魅力を詰め込んだカレーができるまで

宇川地区は、京都府の最北端に位置する人口1200人程度の小さな地域。経ヶ岬灯台や「棚田百選」に選ばれた袖志(そでし)の棚田、天然の鮎が遡上する宇川、世界ジオパークネットワークにも加盟する美しい海といった、豊かな自然にあふれています。しかしながら、この2015年までの20年間で人口が39%も減少。高齢化も進み、スーパーやATMなど地域インフラの衰弱が、地域の人々の暮らしに大きな影響を与えています。

今里ゼミでは、休耕田を利用し、学生たちが地域の人々のサポートを受けながら、手植え・手刈りの無農薬米づくりに挑戦しています。お米は毎年、大学生協で販売していますが、自分たちが育てたお米を活用して、もっと宇川の魅力発信につなげられる方法はないだろうか。そう考えた学生たちは、子どもから大人まで幅広い世代に喜ばれるカレーを開発することに。

地域で育てた野菜や近くの高校生が作ったサバの缶詰、そして今里田で育てた米から作る米粉を用い、宇川加工所のみなさんのサポートも受けながら、小麦アレルギーの人でも安心して食べられるように仕上げました。できあがったカレーは、毎年秋に経ヶ岬灯台で開かれる「灯台祭り」で販売し、1日で5万円の売上を達成。地域内でのプチ経済循環も生まれました。
2019年は、このカレーを更に良いものにしようと、スパイスの調合をイチから勉強。市販のルーを使わないオリジナルのカレーは、丹後商工祭りなどで販売し、好評を得ました。

コロナ禍の今だからこそ完成した「ジビエカレー」

2020年にゼミの中心となった5期生のメンバーたちは、新型コロナ感染症の影響で宇川に行くこともままならず、「現地に行かなくてもできることをしよう」と意見を出し合い、カレーを缶詰にして商品化することを目指しました。

2018年、2019年と先輩たちが開発、進化させたカレーに、5期生の研究テーマであった「獣害対策」から着想して、宇川地区で問題となっているイノシシを使ったジビエカレーを開発することになりました。

とはいえ、カレープロジェクトに携わるゼミ生8人は、誰一人これまで商品開発に携わったことがありません。リーダーの熊谷碧さんも「いったい何から手をつければよいかわからなかった」と当時を振り返ります。

そこで、まずは市場調査を実施。市販のカレーの缶詰やレトルトカレーを食べ比べて、どんな素材やスパイスが使われ、それがどういった味を作り出しているかを学びました。そして、自分たちが作るカレーの個性や魅力についても考察を重ね、どの世代の人でも食べられるよう、甘すぎず、辛すぎない味付けのカレーを作ることに。

実際に試作を始めてみると、ほんのちょっとスパイスの分量が違うだけで味が大きく変わることに気づきました。「グラム単位で細かく調整を続けていくうちに、納得できる味に到達できるまで100回以上も試作しました(笑)」(レシピ担当の井口茉保さん)。
独特の匂いや固さを持つ猪肉の調理も難航。臭みを消し、肉を柔らかくするために色々な素材に漬け込むことを繰り返し、ようやくローズマリーや塩麹、赤ワインの組み合わせが良いということがわかりました。

野菜もできる限り宇川産のものにこだわり、ようやく完成した具だくさんのジビエカレー。「宇川の素材をカレーにかける」という意味と「宇川の内と外に橋を架ける」という意味を掛け合わせ「宇川をかける~山の見えるカレー~」と命名しました。

パッケージのデザインには、袖志の棚田や美しい日本海などを水彩画のテイストで表現。眺めているだけで宇川の豊かな自然とそこに住む人々の温かな人柄が伝わってきます。
開発費には、京都府からの補助金に加え、クラウドファンディングを通じて目標額を超える約28万円を集めることに成功。製造した約700缶は龍大生協や地域の道の駅、「宇川金曜市」等で販売。TVや新聞などで紹介されたこともあり、売れ行きも好調。初回製造分はほぼ完売したそうです。

「食材の調達はもちろん、缶詰の製造は地域おこし協力隊の方にサポートしていただきました。個人的にはコロナ禍でもくじけずにいたからこそ、私たちを応援してくれる方々ともつながれたのではないかと感じています。コロナ禍でなかったら、こんなに完成度の高い商品にはならなかったと思います」(チームリーダーの熊谷さん)

6期生は「海の見えるカレー」を開発中

6期生のメンバーは、5期生の先輩たちが作ったカレーをベースに、地元特産のサバを取り入れた「宇川をかける~海の見えるカレー~」を開発中です。
「地元の方から宇川のばら寿司をヒントに、サバ缶をフレーク状にものを入れてはどうかとアドバイスをいただきました」(カレープロジェクトの現リーダー・藤田稜平さん)

サバの缶詰は、舞鶴にある京都府立海洋高校の生徒さんたちが製造したものを使用。使用する野菜も全て宇川地区で採れたものに統一させ、ダシや焦がし醤油をきかせた和風テイストの仕上がりにする予定なのだとか。

藤田さんがカレーの商品化と合わせて進めているのが、今里田で育てたお米と、「山の見えるカレー」「海の見えるカレー」2種類を詰め込んだギフトセットの企画。観光客のおみやげ用はもちろん、宇川地区の人々が地域外の人へ送るお歳暮やお中元に活用してほしいと考えているそうです。

「自分たちが育てた野菜が入ったカレーは地元の農家の方々にとって、誇りにつながるのではないかと思います。新しい六次産業化の取組として、ぜひ成功させたいと思っています」(藤田さん)