皆さんはどんな果物が好きですか?近年、輸入果実も多くなってきて、名前が分からないものもあるのではないでしょうか。果物は、健康を維持するために私たちにとってとても重要な農作物の一つです。果物といえば、色や甘さとともに思い起こすのはその独特の香りですよね。実は、この「香り」が果物の「品質」に深く関わっています。
果物の品質には一般的に、色彩、食感、味、香りなどがあります。その中でも、香りは果物の品質に占める割合が大きいです。果物は熟するとともに香りが生成されますが、目では確認できません。しかし、これらの香りは揮発性成分ですので、私たちは鼻で嗅ぐことで、果物の香りを感じることができます。今までの様々な研究で、品種によって異なりますが、リンゴや梨は300以上、メロンでは240以上、イチゴでは約350、バナナでは250以上の揮発性香気成分が同定されています(※文献1)。
果物の主な香気成分には、エステル、テルペン、アルコール、アルデヒドなどがあります。中でもエステル類が最も多く含まれている香気成分で、柑橘類にはテルペン類が多いです。リンゴやバナナなどを食べて「甘い」香りを感じたことがありますよね。あの香りが主にエステルの香りです。エステルも種類が沢山ありますので、それぞれの果物に含まれているエステルの種類によって、果実を特徴付ける香りが異なります。つまり、エステルが含まれていてもバナナとリンゴの香りは違うということです。
果物の香りは、収穫時期、収穫後の温度管理や周囲の空気組成(※文献2)などの環境条件や不適切な取扱いなどの影響で変化しやすく、品質に悪影響をおよぼすこともありますので品質管理には注意が必要です。
私たちは果物を食べて「美味しい」と感じるのは、その果物の風味(フレーバー)が良いからです。果物の風味とは、味と香りの相互作用のことです。つまり「味」と「香り」のバランスで果物の「美味しさ」が決まるということです。
「味」には、糖度と酸度、糖酸比が関係しますが、それに「香り」が加わると風味がよくなって美味しくなります(図1)。果物の香りは直接鼻で感じる香りと、食べる際口の中から鼻を抜けて感じる香りがあるので、その香りに味が合わさると美味しく感じるようになります。なので、高品質の果物のおいしさに「香り」は不可欠と言っても過言ではないです。例えば、ジュースなどの加工食品に香料を加えているのも、製造工程で失った香りを補い、美味しさを向上させるためです。
香気成分は、二つの方法で測定できます。一つ目は、官能評価です。この場合、パネラによる官能検査(食べて/香りを嗅いで評価する)によって果物の風味/美味しさを評価します。この方法では、食品と消費者を直接的な方法で結び付けることが可能となります。
二つ目は、機器分析による成分測定です。糖度計による可溶性固形分を測定することで糖度を、滴定酸度で有機酸を測定することで酸度を測り、味を評価します。揮発性香気成分はガスクロマトグラフという分析機器を用いて測定します。このように官能検査や機器分析によって果物の美味しさを評価することができます。
果物の香りは、ある揮発性成分が多量に存在するからといってその果物の香りを代表する揮発性成分とは限らないです。つまり、微量に含まれる香気成分がその果実の特徴付ける香気成分になる場合もあるということです。香りは、果物の品種、熟度、環境要因や収穫後の取扱いなどによって影響されやすいです。消費者に高品質の果物を提供するためには、「香り」は重要なキーワードになるでしょう。
実は、消費者が二回目以降に生鮮果物を購入の際、「香り」を重視するようになっている場合が多いと言われています。香気成分に対して消費者のニーズに対応することは、消費者がより多くの果実を購入することになるだけではなく、生産者にとっても利益が上がるきっかけにつながることになります。このように、果物の品質向上に「香り」が大きな役割を果たしていると言えます。
これから果物を味わうときに「香り」に注目してみてはいかがでしょうか。
<引用文献>
1. Advances in Fruit Aroma Volatile Research. Muna Ahmed Mohamed El Hadi et al., molecules, 2013.
2. Inhibition of acetate ester biosynthesis in banana (Musa sapientum L.) fruit pulp under anaerobic conditions. Wendakoon et al., J Agric Food Chem, 2004.