知人の持つ古いタイプの携帯電話をみて、「ガラケーですね!」と軽口をたたいた際に、「ビンテージと呼びなさい!」と機転の利いた反応をもらったことを記憶している。このガラケーという単語に含まれる「ガラ」は、ご存知の通り、独自の生物進化がみられるガラパゴス諸島に由来する。パカパカと二つ折りにできる携帯電話が、わが国独自に進化・発展してきたことから、このように呼ばれるのだろう。
かたや、スマートフォンと呼ばれるタイプの携帯電話は、地理的な隔たりや国境を軽々と超えて、グローバルな展開をみせている。そして、わが国のガラケーの絶滅はすぐそこまで来ているようにさえ感じられる。利便性や効率性がより強く求められる分野では、時にグローバリゼーションが一気に押し寄せる。
今回は、食の話である。人間の食事は、生物の命を頂く行動である。感謝を忘れてはならないことは述べるまでもない。多種多様な生物が織りなす「食の循環」の中で、私たちは生かされている。自然環境や地理的な状況、それらに伴う生物の進化に依存して、地域独自の「食の循環」が形成され、食は進化してきた。当然ではあるが、食の進化に独自性があるのは、なにもガラパゴスばかりではない。たとえば、我が国で形成された「食の循環」は、言うまでもなく、我が国の食を洗練された和食として進化させてきた原動力である。
東洋のガラパゴスをご存知だろうか。西表島である。西表島といえば、イリオモテヤマネコをはじめとする稀少な動物の生息地として知られる。ヤマネコばかりでなく、ウミガメやワシなど、固有種の宝庫である。最近になり、西表島から酵母とよばれる微生物の新種が見出された。西表島にちなんで、C. iriomotenseと命名された。
酵母というと、パンやお酒を作る微生物としておなじみであるが、新しく発見された酵母は、おそらく、酒作りにもパン作りにも向かない。その代わりに、この酵母は大量の油をつくる。なぜ、これほど油を作るのか、筆者には想像もできない。この酵母という小さな生物が油を作りながら、西表島の「食の循環」の一部分を担っている。もしかすると、この機能を上手に利用することで、この酵母は地球のエネルギー問題や食料問題の解決に寄与するかもしれない。
※詳細は理化学研究所HPをご覧下さい
http://www.riken.jp/pr/press/2018/20180921_2/
話があちこちになったが、何億年かの歴史の中で生まれた多様な生物の存在を裏打ちとして、食の進化がなされてきた。スマートフォンのケースと異なり、様々な環境における食の進化にはガラパゴス化は存在しないようにも思える。あるいは、ほぼ全ての食の進化はガラパゴス化している、と言った方がいいのだろうか?いずれにしても、食の進化により形成された食文化は地域のビンテージと呼んでいい貴重な財産であろう。