うまみは味覚の一つである。それも味の中心となる「5つの原味」の一つである。
テレビ画面の色には3原色があり、赤と青と緑色である。人間の目はこの3色しか感じない。この3つの原色の光を適当に混ぜ合わせて人間は様々な色を感じている。
味にも5つの原味がある。砂糖のように甘い味を甘味、酢のように酸っぱい味を酸味、塩を塩味、苦い味を苦味という。他の味では作り出せない。極めて明確である。
さて、5番目の味にうま味がある。味の素の研究者であった山口静子博士らの研究で、うま味は他の味の混合では作りだせないことが明らかになっているので、これも原味である。
砂糖を口にすると世界中の人が甘味を感じる。酢は世界中の人が酸味を感じる。苦味も塩味も同様である。だから、うま味という味を口に入れると世界中の人がうまいと感じるべきである。しかし、この関係が成り立たないところが話をややこしくしてきた。
この混乱の原因はうま味という名前のつけ方が良くなかったからである。「うま味」という語には味覚のほかに「おいしい」というニュアンスが含まれている。しかし、「おいしい味」という理想の味などは存在しないことは誰でもわかる。だから海外の研究者はうま味というのは訳のわからない味として反発してきた。
うま味とは何かというと、「グルタミン酸ナトリウム、つまりうま味調味料味の素®の味」であるというのが科学的には最も正しい。
うま味が味の素®つまりグルタミン酸ナトリウムの味を指すことは歴史的な経緯がある。100年も前に池田菊苗博士が、昆布だしの味わいがこれまでの味覚では説明できない新しい味だと直感して、これを煮詰めて取り出したのがグルタミン酸である。ところが博士はこの新しい味を「うま味」と名づけてしまった。塩の味が塩味なのだから、昆布の味はコブ味とすれば何も問題はなかっただろうと山本隆大阪大学名誉教授は言う。世界中の人が昆布を口に含めばコブ味はわかるのだから。
長い間、うま味は新しい原味として本当に存在するのかという議論が世界中で戦わされた。甘味と塩味を混ぜたら作り出せるのではないかという意見さえ出た。うま味の存在が科学的に証明されたのは池田菊苗の発見後100年近く経った21世紀になってからである。それまでの長いあいだ明確な結論が出ないままになっていた。
科学的な証拠というのは以下の通りである。
5つの原味にはそれぞれの味を分担して感じる専門の受容体つまりセンサーが舌の上になければならないという決まりがある。科学的証拠としては、うま味を専門に感じる受容体が発見されなければならなかった。
舌の上でうま味を専門に感じる受容体は2000年頃にアメリカ人研究者によって見事に発見された。それ以降、うま味はやっと市民権を得たのである。100年もかかって、うまみは確実に存在することが世界に認められ、疑うものはなくなったのである。以来、堰を切ったように世界中のシェフが日本のうま味に注目しはじめ、今日に至っている。
出典:(一社)日本ソムリエ協会「Sommelier.jp」