日本の伝統的な主食でありながら、消費が減少傾向にある「お米」。この切実な問題について、今農業を学ぶ若者たちはどのように考え、向き合っているのでしょうか? 大学における最新の取り組みを探るため、龍谷大学農学部がコンビニ業界大手・ローソンの協力を得て実施した『新しいお米のカタチプロジェクト』の成果報告会へ。学生たちがみずみずしい感性やアイデアを通して提案する、新しいお米の食べ方や販売戦略などをご紹介します。
2015年に新設された龍谷大学農学部は、農作物の育成から加工、流通、消費を含めた「食の循環」を総合的に学修することで、“新しい農業のあり方”を切り拓いていくカリキュラムが特徴。2017年から1年間をかけて実施された課外活動『新しいお米のカタチプロジェクト』も、同学部ならではのユニークな取り組みです。株式会社ローソンの協力を経て、参加学生たちはまず、ローソンの独自の商品開発やマーケティング戦略を学習。その上で各チームに分かれ、現代のマーケットやライフスタイルに合うお米の食べ方や加工法の研究、販促アイデアの企画をスタート。2018年12月に開催された成果報告会で発表を行いました。
会場の龍谷大学瀬田キャンパスでは、プロジェクトに参加した12のチームのブースが設けられ、研究成果をまとめたパネルや資料の展示、試作品の提供などが行われました。協力したローソンをはじめ、外部審査員や学内の教職員が選ぶ7つの賞が設けられていることもあり、学生たちのプレゼンテーションはいずれも真剣で、熱気にあふれていました。
こちらは、チーム名「ライスミルク」のブース。“第3のミルク”として注目を集めるライスミルク(穀物ミルク)をコンビニメニューに取り入れることで、米の消費量を上げるアイデアをプレゼンテーション。識者へのインタビューによる栄養学的な裏付けのほか、高い原価をカバーするため、女性ファンが多く付加価値の高いスープメニューとして提案するなど、綿密なリサーチ結果に基づいた提案が印象的でした。
こちらは、日本酒の消費拡大を促す販売戦略を企画したチーム名「お米で作ったお酒」のブース。モヒート風カクテルや、「マチサケ」と名付けたコンビニのテイクアウト商品の提案はとてもユニークで、特に若い世代への普及の期待が高まりました。ローソン商品開発部の方々や滋賀県知事の前でも物怖じせず、ユーモアを交えたプレゼンを行う姿も頼もしいものでした。
香ばしいお餅の香りが漂うチーム「グリーンフェイス」のブースも大にぎわい。「うるち米を使った五平餅をコンビニ展開する」というテーマのもと、多彩なフレーバーを考案。「うるち米なら食べやすく、子どもやお年寄りがのどにつまらせる心配も少ないので、コンビニ展開におすすめです!」とチームリーダー。冷凍した五平餅を焼いて試食提供するなど、リアルな流通展開を見据えた姿勢も高評価を集めていました。
素朴な駄菓子として昔から親しまれてきたポン菓子(ライスパフ)の糖分を抜くことで、朝食時の手軽な栄養補給や災害時の非常食、さらには洋食へ使用を提案したのがチーム「ライスパフ」。「製造業者と交渉し、砂糖を抜いたライスパフを一から作ってもらいました」という言葉からも、彼らの真剣度が伝わります。これを納豆ごはん、明太子ごはん、リゾット風、チョコレートパフの4つの多彩なフレーバーに展開。マーケットの広がりを感じさせるプレゼンテーションでした。
今回の成果報告会の審査で、注目の<ローソン賞>に選ばれたのはチーム「Rice’s」による「お米をふんだんに使用した定食」。米粉や米油、米酢などさまざまな米の加工品で作るシフォンケーキやポタージュ、ライスボウル(唐揚げ)を通して、“お米づくしの一汁三菜定食”を提案した企画です。副賞としてローソンの人気商品「からあげくん 1年分」も授与され、会場も大盛り上がり。
受賞理由を、ローソン商品本部 近畿商品部マーチャンダイザー 奥西真名さんはこう語ります。
「米料理の可能性を徹底して追求された姿勢、スープにまでお米を使う斬新なアイデアが素晴らしいと思いました。そして、お料理がどれもおいしかったことも受賞の決め手です。広く愛される商品になるには“おいしさ”は欠かせないポイント。商品開発における大切なことが見事に凝縮された素晴らしいプランだったと思います」
<龍谷大学学長賞>を受賞したのは、植物生命科学科4年 加藤洋樹さんが取り組んだ「発芽玄米を使ったビール」。麦芽の代わりに発芽玄米を主原料に用いて醸造を行う研究発表です。発芽玄米は通常の米より栄養価が高く、抗ストレス作用やリラックス効果が期待されるタンパク質『GABA<r-アミノ酪酸>』を含むことから、今注目を集めている食品のひとつ。「米の消費拡大とあわせて、現代人のストレスケアに役立つ商品開発を目指しました」と加藤さん。残念ながら現時点ではアルコール濃度が上がらず、完成には至りませんでしたが、「研究過程を評価いただいたことをうれしく思います。この失敗から多くを学び、2ヶ月後の卒業研究発表でリベンジを果たします!」と力強く語っていました。
その他の受賞内容は以下のリストの通り。いずれもユニークなアイデアのみならず、日本のマーケットやターゲット層をしっかり設定した上で落とし込まれた提案が高く評価されていました。
<結果> ※「」内にアイデア、()内にチーム名を記載
ローソン賞:
「お米をふんだんに使用した定食」(Rice’s)
学 長 賞:
「発芽玄米を用いたビールの開発」(島ビール)
e-radio エフエム滋賀賞:
「お米で作ったお酒を売るための戦略(商品開発)」(お米で作ったお酒)
滋賀県米消費拡大推進連絡競技会賞:
「うるち米を利用した餅づくり」(グリーンフェイス)
農学部長賞:
「日本人向けスリランカのコメ料理」(「インディアーッパ」でいんでねーか)
瀬田教学部長賞:
「ライスミルクをもとに米の消費量を上げる」(ライスミルク広め隊!)
Ryukoku Extension Center賞:
「ライスパフ」(ライスパフ)
さらに本プロジェクトから派生し、龍谷大学農学部とローソンによる「コラボレートおにぎり 2種」が誕生したことも見逃せません。成果報告会と同日開催された滋賀県主催『もっと食べよう近江米フォーラム』内で、お披露目と試食も行われました。商品名は『和風だし飯おにぎり』と『洋風ブイヨン飯おにぎり』で、「冷めてもおいしい」と評判の滋賀県産米「みずかがみ」を使った初のコンビニおにぎりです(2018年12月17日〜12月31日、滋賀県内限定で発売終了)。
近江米のおいしさを存分に味わうため、どちらも具を使わず、かつおだしやオリーブオイルを効かせたスープの旨みだけでお米を味わう点が意欲的。「塩おむすび以外で、具がないおにぎりの新商品はローソンでは初めて」(ローソン商品本部 本部長補佐 伊藤敏彦さん)という言葉からも、近江米のおいしさに惚れ込んだ気持ちが伝わってきます。
商品パッケージは、プロジェクトに参加した学生2名(資源生物科学科3年 木村尚輝さん、食料農業システム学科2年 池木咲桜さん)のアイデアが採用され、味わいについては、農学部食品栄養学科 伏木亨教授がアドバイスを行いました。
「みずかがみは冷めてもおいしいため、すし店でよく使われている品種です。今回のおにぎりは正にその特徴を生かした商品。おだしやスープによって、お米のおいしさがより引き出されている点も見事ですね」と、その味わいは伏木教授もお墨付きです。
「近江米」という地域の素晴らしい資源を、若者の自由な創造力とビジネスのプロフェッショナルの力で、見事に開花させることができた本プロジェクト。この経験は、滋賀県のみならず日本全国の米農家、未来の農を担う若者たちにとっても大きなヒントとなることでしょう。